大和は楽屋を眺めながら、ふと数か月前のことを思い出していた。このツアーが始まる前に発売されたIDLiSH7のアルバムはオリコンチャートで何週も1位を飾った。時を同じくして発売された七瀬陸のシングルもまたゼロを超える勢いで世の中に広がっている。とある映画用に作られたというその曲は“別れ”と“後悔”、そして“未だに消えない愛情”を歌っていた。陸の天性の歌声と心に響く歌詞が一体となって織りなすその歌を聞いた人は自然と涙したという。人の心に届く歌。そんな言葉がテレビでも使われるようになった頃。驚きのニュースがIDLiSH7の元に舞い込んできた。 「「「アルバム、シングルチャート2冠!?」」」 「はい!皆さんのアルバムと陸さんの新曲の両方が売り上げチャートで1位になったんです!」 マネージャーの報告に喜ぶメンバーを他所に陸はスマホを握りしめていた。その画面には天からのメッセージが一つ。「次のライブ必ず見に行くよ」メンバーの喜びから送れること数秒。小鳥遊事務所に陸の泣き喚く声が響いた。 陸の涙の理由を知る者はここにはいない。天と陸、2人だけの秘密。 泣くほどうれしいのかとメンバーに揉みくちゃにされながら陸は一人涙を流し続けた。 “あの日の約束”が果たされる喜びで陸の胸は一杯だった。もう二度と公に兄弟だと口にすることはできなくでも5年でできた溝が少しでも埋めることができたならそれだけで幸せなのだ。