▼夏目家の一階は喫茶店となっている。
喫茶夏目、それが店の名前だ。
沙代子の父の代から続く喫茶店で、彼女の父が亡くなってからは沙代子が一人で店を切り盛りしている。
つまり沙代子の夫、武則は入り婿であり、そうする事で沙代子の父から結婚を許されたという話を生前の母親から主人公は聞いたことがあった。
(そうまで結婚したけど今は……)
主人公は喫茶店の入り口からそっと店の中の様子を覗く。
店内では沙代子が開店の準備に追われている様子が見てとれた。
主人公は静かに家の入り口から玄関に入り靴を確認する。
商社のサラリーマンをしている武則の革靴がひとつなく、彼が家にいないのを確認した主人公はそっと二階のダイニングへ。
主人公はコーヒー豆の入った缶を開ける。
中には濃厚な香りの南米産だとかの高級なコーヒー豆が入っている。
主人公はさらに学校鞄を開けて小瓶を取り出すと、コーヒー豆を缶から全て出し、その上から液体を少しづつコーヒー豆に振りかけてゆく。
満遍なく丁寧に。
(もう、これで三年になるかな)
主人公は小瓶の液体を全てコーヒー豆に染み込ませると、掛けすぎて湿ったものは取り除き全てを缶に戻して元の場所にそっと収納する。
コーヒー豆の缶の横に紅茶のTバックを入れた箱がある。
(ついでにおじさんの分も足していくか。そろそろ沙代子さんも限界のはずだから、おじさんにはもっと強く精力を減退しておいてもらわないと)
主人公は強く強く沙代子に恋をしていた。
ずっと以前から。
そしてその思いを絶対に叶えようと心に誓っていた。
主人公なりの方法で。
主人公は居候となって三年の間、ずっと沙代子と武則に薬を盛ってきたのだ。
二人の大好きな、毎日飲むコーヒーと紅茶に。
沙代子には媚薬を。
武則には精力を減退させる薬を。
(もう二人の間には二年以上SEXはないはずだ)
主人公は目的を達成すると、そっと家を出る。
そして再びこっそりと喫茶店の入り口から店の中の様子を伺う。
(ふふ……。もうすぐだからね沙代子さん)
先ほどもキッチンで沙代子を観察していて確かに確認した事実。
三年間、媚薬を盛られてきた沙代子の体はここ数日大きな変化を見せている。
毒が致死量を超えるように、媚薬が何かを越えたのだろう。
沙代子は艶かしく内腿をくねらせ、下着や上着の上からでもよく見ればはっきりわかるほど乳首を尖らせているのだ。
頬は紅潮し、時おり、甘い吐息をもらす。
(沙代子さんの“女”を僕が呼び覚ましてあげたよ。そして目覚めた“女”を僕が慰めてあげるから)
主人公は近所で評判の無邪気そうな微笑を浮かべると学校へと急ぐ。
少し沙代子を眺めすぎて遅刻してしまうかもしれない。
主人公の恋の季節がはじまった。