「あ……ソラさん。お久しぶりです」 およそ一ヶ月ぶりに再会したセーラ司祭の顔は、深い疲労と色濃い不安が溶け合わさり、ひどく青ざめて見えた。 俺を見てとっさに微笑むも、その姿は痛々しいという他ない。子供たちの様子から察してはいたが、娘イリアの具合は相当に悪いのだろう。 セーラ司祭は沈痛な面持ちで説明してくれた。「薬も魔法も、はじめは効くのです。ですが、すぐに症状が再発してしまい……それだけではありません。再発した症状は、以前に効いた薬、魔法の効き目が薄くなり、ついにはまったく効かなくなってしまうのです」 その様は、あたかも病魔が患者の体内で成長進化しているようだという。 以前にこの村を訪れた際、俺は『組合』のつくった解毒薬だけでなく、ジライアオオクスの実も置いていった。セーラ司祭によれば、今のイリアにはジライアオオクスの実すら効果がないそうだ。 これはいよいよヒュドラの毒とみて間違いない。そう考えた俺は、ここ数日の出来事を司祭に語ろうとして――ためらった。 娘イリアを侵している毒が不治である、と母セーラに告げるのは勇気がいる。 たとえれば、患者の家族に病が不治であることを告げる医師のようなものだ。ここで問題なのは、俺は医師のような専門の知識もなければ資格も持っておらず、肝心の「不治」の部分も推測に過ぎないということ。 いってしまえばヤブ医者である。 そんな人間が「この毒は不治の可能性がある」などといったところで、いったい誰が信じてくれるというのか。いいかげんなことをいうな、と怒鳴られるのがオチである。 俺がセーラ司祭の立場なら、怒鳴るだけではあきたらず、おもいっきりぶん殴るだろう。 なので、そこらへんのことは黙ったまま、ミロスラフの献身で出来あがった解毒薬(改)を渡そうか、とも考えた。 だが、これもこれで問題がある。 ミロスラフいわく、俺の血は劇薬と同じであるという。その劇薬を混ぜた薬を、何の説明もなくイリアに投与するのは問題だろう。最悪の場合、弱ったイリアの身体に致命的なダメージを与えてしまう。 かといって、そのあたりを詳しく説明すると、どうしても毒の不治性に言及せざるを得ない。俺自身の秘密もある程度明かす必要がある。 いずれもセーラ司祭にとっては雲をつかむような話であろう。 この危急のときに愚にもつかない戯言たわごとを――そんな風に司祭に軽蔑の目で見られる自分を想像するのは、想像の中でさえけっこう堪こたえた。「……? ソラさん、何かあったのですか?」「うぇ!? な、なんでそう思われました……?」「ひどくおつらそうに見えたものですから……そういえば、今回の訪問の目的もまだうかがっていませんでしたね。何か相談事があるのでしたら、遠慮なくおっしゃってください」 そう言った後、今の自分の状態に思い至ったのか、司祭は恥じらうようにやつれた頬に手をあてた。