と、そこでふと気づく。 窓の外から白い蝶が翔んできた。白、というより紙の蝶、というべきか。蝶はゲオルの机の上にやってくるものの、他の者は全く見向きもしない。気づいていない、のではなく気づかないようにしてあるのだろう。 蝶は机の上に降り立ったと同時、その姿を一枚の小さな紙へと変化させる。そして、そこには文字が書かれてあった。「……、」「? ゲオルさん、どうかしましたか?」「いや……少し食べ過ぎた。外を歩いてくる」 そう言うと、ゲオルはそのまま家の外へと出て行った。 * 北部の街はその夜も静かなものだった。 以前はそこら中に魔毒があったものの、今ではそれも無くなっており、空気もどちらかというと澄んでいる。家々や建物、風景に然程変わりはないが、しかし空気や雰囲気は確実に変わっていた。 そんな北部のとある路地裏。 そこでゲオルはある人物と会うこととなっていた。「早かったわね」 ゲオルが路地裏にやってきた時、そこには既にアンナが杖をもって立っていた。そして、その隣にはこちらに顔を向けず、別の方へと視線を向けているメリサだった。「……一人で来る、と書いてあったと思うが?」「それについては謝罪するわ。ちょっと貴方と話がしたい、といって聞かなかったから。まぁ彼女の話は本題の後ってことでお願いできないかしら?」 知るか、といつものゲオルなら切って捨てるだろう。ゲオルはメリサのことを好ましく思っていない。加えて言うのなら向こうは約束を破った形になるのだ。ならばそれに応じる必要など、本来はない。 が、しかし向こうがこちらの欲しいものを持っていることからして、今は多少の我が儘を抑える必要があった。「……さっさと用件を済ませろ」「了解したわ」 そう言ってアンナは懐から一枚の羊皮紙を取り出す。丸まったそれを受け取るとゲオルはその場で開いた。それは地図であり、ある特定の部分に×印と名前らしきものが書かれてある。それは『六体の怪物』の名前だった。「それがアタシ達が掴んでいる『六体の怪物』の居場所の情報。とは言っても、既に緑のシュバインは倒してるから、後は二体しかないけど」「ゲーゲラに印はないようだが?」「この街はたまたま見つけたようなものだからね。そもそも、正体が分からなかったから、本当に『六体の怪物』なのかって疑問もあったのよ。まぁそんなの言い訳にしかならないけど」 苦笑しながら言うアンナ。 そんな彼女にゲオルは疑問に思っていたことを口にする。「貴様がこれを渡す理由は何だ?」 そう。あの紙の蝶。彼女の魔術で作られたあの使い魔に書かれていた内容は『六体の怪物の居場所。その情報を渡す』というものだった。 仮にも昼間、ゲオルは勇者を殺そうとした男だ。そんな人間に何故自分達が持つ貴重な情報を渡そうというのか。