「っ!? ……グルルル~っ!」 飢えた犬は瞳に力を取り戻すと、牙を剥いて唸り声を上げた。当然ヴァンダルーの手にある干し肉には気がついているが、それよりも彼自身に対して警戒し、威嚇する事を選んだのだ。「こういう時は……怖くないって言うんでしたっけ?」 そう言いながら、ヴァンダルーは威嚇する犬に恐れず手を近づける。「ガウッ!」 犬は反射的にその手に噛みついた。干し肉では無くヴァンダルーの手に、全身全霊の力を込めて牙を立てる。「っ!?」 だが犬にとっては驚いた事に、ヴァンダルーからは何の反応も無かった。痛みに驚いて手を引っ込める素振りもなく、ただただ噛まれ続けている。 そして犬が噛みついている手も異様だった。……どんなに牙を立てても、血が出ない。皮膚が破れないのだ。「よしよし、そんなに甘噛みしなくても良いですよ。……まさか本当に効果があるとは。言ってみるものですね」 そんな事を言いながら、犬の頭をもう片方の手で撫でるヴァンダルー。その瞳の奥で、何かが蠢いているように犬には感じられた。 犬は悟った。こいつは人間ではないと。「……クゥン」 噛むのを止めた犬は、ヴァンダルーの赤くもなっていない屍蠟のように白い手を舐める。「良い子ですね。お腹もすいてきましたし、早速晩御飯にしましょう……その前に少し綺麗にしましょうか」「ワン!」 そして犬はヴァンダルーについて家に入って行ったのだった。