過去の経験上、何かを企んだような笑顔を浮かべたフロムの誘いに、良い思い出はなかったから。
だから、ディオは知らなかった。
平穏なシグナス艦内に、少しずつ嵐が近付いてきている事に。
青葉はフロムに連れられて、ブリッジまで来ていた。
『会わせたい人がいる』という誘いに乗ってきたのだが、一人残してきたディオが気掛かりのようだ。
どこか落ち着きが無い。そんな彼の分かりやすさに苦笑しつつも、フロムは視線の先に目当ての人物を見つけ、足を止めた。
すらっとした手足が目を引く長身の男。傍には、副艦長やエルヴィラが控えており、何やら話し込んでいるようだ。
その男はフロム達の存在に気付くと、柔らかく微笑んでみせた。
「ヴァンタレイ少尉、久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
「はい。中佐もお変わりなく」