「じゃあ、早速通しで一度踊ってみましょう」 気を取り直したカナコが、ダンスの指導を始める。現地採用の内、歌とダンス担当のメンバーに、「背筋を伸ばして!」「そう、その調子です!」と声をかけていく。 そのレッスンについて、行っているカナコ自身はこれまでと同じ感覚だった。しかし、彼女以外のメンバーにはこれまでとは大きく変わって感じられた。 カナコの指示にどう応えれば良いのか、これまでよりも理解できるのだ。教えられた事が、すぐに血肉となって身についていく感覚が、成長している充実感が感じられた。 倉庫の入り口で見ているだけのダグでさえ、思わず聞き込んでいた。「カナコさん、最後のステップのところがどうしても上手くできないんです。どうしたらいいですか?」「次、歌もみてください!」「わ、私も歌とダンスのレッスンに参加して良いですか!?」 充実感はレッスンへの熱意を増し、昨日までよりも熱心にカナコにアドバイスや指導を求める。それだけではなく、楽器の演奏を主にならっていた冒険者のエディリアが、歌とダンスも教わりたいと希望してきた。 意識の片隅に何か引っかかりを覚えるが、それに気を払う事なくカナコに近づいて行く。「カナコ、儂も良いかの? その曲はもう合格を貰っているが、ただ見ているだけでは身体が鈍るからの」 それだけではなく、なんと練習していた曲は既に習い終えているザディリスまで、そう言って参加しに来た。「珍しいですね。どう言う竜巻の吹き回しですか?」「言いたい事は分かるが、人の意欲を削ぐような茶々を入れるでない」 むっとした様子のザディリスだが、彼女は普段からレッスンに乗り気ではない。正確に評するなら、練習は熱心に取り組む。ステージの上で観客の前で披露するのに、十分な水準に達したとカナコが判断した後、彼女自身が納得するまで、油断なく繰り返し続ける。 しかし、その後はその水準を維持するのに必要なレッスンしかしないのが常だった。「いや、何か失敗したらステージの上で恥をかくのは儂じゃからな。それに、儂は坊やの従魔じゃから、坊やの評判にもかかわるじゃろうし。 まあ、そう言う事じゃ」 だから、そう照れた様子で言い訳しながら練習に加わったザディリスの肩に手を置いて、カナコは言った。「ようやく正直になりましたね。じゃあ、ザディリスちゃんも入れて、もう一回通しでやりましょう。ルドルフさん、今回は伴奏もお願いします!」「ちゃんっ!? それに正直とはどう言う意味じゃ!?」 反射的に言い返したザディリスを無視して、レッスンが再開される。