「おい、俺はラルフ。依頼でここのミノタウロスキングの討伐と、ある女を助けに来た」「えっ……?」「俺は、ラルフだ。お前の名前は?」 ランドルフはこういう時の為に決めてある簡単な偽名を繰り返し名乗って、獣人の少女に訪ねた。「お、オレはナターニャ」「そうか、ナターニャ。俺は公爵から依頼を受けてその女を助けに来た。その女が何処にいるか分かるか?」 そう伝えると、ナターニャは暫く考えた後答えた。「臭いを辿れば、多分」 その答えを聞いたランドルフは、マントで包んだナターニャを抱きかかえるようにして血の跡だけが残るミノタウロスの巣を彼女が指し示す方向に向かって進んだ。そして程なくミノタウロスが女達を監禁していた部屋に辿りついた。中には幾つもの人骨が転がっていて、監禁部屋と言うより処刑部屋と言った様子だったが。 恐らく、死んだり使えなくなった女はこの部屋でそのまま食い殺していたのだろう。 そしてユリアーナ・アルクレムは、まだ生きていた。「そんな……」 呼吸も鼓動もしている。ナターニャ同様四肢が切断されているが、それは元からだろう。ある程度の実力を持つ者を安全に監禁するためには、鉄の枷を嵌めるだけでは不十分だ。四肢を切断し、両目を潰し、声帯を裂かなければいけない。 それを考えれば四肢だけで済んでいるのは、ミノタウロス達の処置がまだ甘かったと言う事だろう。 しかし、ユリアーナはすっかり壊れていた。ナターニャとランドルフが姿を現しても、虚ろな瞳で虚空を眺め、半開きになった口の端から唾液を垂らすだけで、反応らしい反応は一切見せない。 ランドルフは念のためにとナターニャにもかけた【解毒】の生命属性魔術をかけてやるが、ユリアーナが正気を取り戻す事は無かった。「オレが連れて行かれるまでは、やつれてたけど意識があったのに。オレに諦めるなって……自分はまだ【御使い降臨】は使えないけど、神様が必ず助けてくれるって!」「その後何があったかは、大体察しがつくな」 恐らく、あのミノタウロスキングが儀式に使うナターニャ以外に残っていた女の体内に、【魔王の卵管】で大量の卵を産みつけたのだろう