それが轟々と音をたてて心装を覆っていく。それだけではない。力の奔流は空にも流れ込んでいく…… 次の瞬間、ゴズはとっさにその場から飛びすさっていた。直後、一条の閃光がそれまでゴズの立っていた空間を撫で切る。 倒れたまま、空が心装を振るったのだ。今の今までのたうっていた者の放つ斬撃とはとうてい思えない鋭利な一閃だった。 と、ゴズの視界の中で空がゆっくりと立ち上がる。 すでにその顔に苦悶はない。口元に張り付いた胃液を袖で拭い取った空は、ゴズを見て愉しげに口を開いた。「ゴズ。お前を喰うぞ」 ニィィ、と。 空が唇の端を吊りあげる。 その表情を目の当たりにしたゴズの全身に悪寒が走った。空装を励起し、鉄壁の守りを得たにもかかわらず、己を見据える空の目に怖気を震った。 とっさに地面に刺していた青竜刀に手を伸ばす。今の空相手に無手は危険であると本能が告げていた。◆◆◆ 弾けるような勢いで空がゴズへと躍りかかる。怪我の影響など微塵も感じられない、それどころか先刻までのゴズに迫る速さ。 負傷の治癒は間違いなく心装の力であろう。では、この動きも心装の助力によるものなのか。それとも、先刻のゴズの動きを見て、短期間で上級歩法を習得してのけたのか。 いずれにせよ、今の空を先刻までの空と同一視するのは危険だった。 相手の降参を引き出す心積もりだったが、ここにおいてそれは下策であるとゴズは判断する。 どれだけ空を叩き伏せても、そのつど心装が回復してしまうのでは意味がない。もしかしたらあの回復術には、回数なり条件なり、なんらかの制限があるのかもしれないが、それを探り出している時間もない。ここは一息に決着をつけるべきであろう。 そうしている間にも空は迫っている。その手に握られた魂喰いソウルイーターは、先刻までの鬱憤を晴らすかのように猛り狂い、決して大柄ではない空の体躯に巨象のような迫力を与えている。 振りかざされ、振り下ろされる空の心装をしっかと見据えながら、ゴズはみずからの青竜刀を一閃させた。「幻想一刀流 中伝――閃耀せんよう!」 それは勁けい技ぎと剣技を練り合わせた光の斬撃。空装の刃をもって放たれるこの奥義で、空の手から心装を叩き落とす。それがゴズの狙いだった。 これに対し、空の放った斬撃に幻想一刀流の妙はない。ただ力のかぎり心装を振り下ろす、それだけの一撃だった。 衝突する二つの刃。 次の瞬間、光を帯びたゴズの青竜刀がひときわ激しく輝き――音高く断ち切られた。