理は、真昼特有の強い日差しを浴びながら、街中を歩く。 環から貰った麦わら帽子は、何処か懐かしさを感じる素材だった。 足早に去っていくサラリーマン、恋人との時間を謳歌する大学生、誰にも見向きされなくても歌うバンドマン。 有り触れた日常に、色が無いと感じるのは、己の感情が鬱蒼としているからなのか。「こんな風に、街並みを見るのなんて、いつ振りなのかな?」「お嬢さん、可愛いね!モデルとか興味ありませんか!?」「………!い、いえ。急いでます、ので!」「そんな事言わずに………少しだけ、ですから!ね?」しつこいスカウトマン。 前は、天が上手いこと追い払ってくれた。 何とか逃げ切ったが、日常の矛盾からは逃げ切れなかった。 前ならば──。 本当なら──。 過ぎる考えに、脳を委ねてしまうと、そのまま、思考を放棄する程の、辛さが絡んでいる。「理!財布、忘れてんぞ…って、泣いてんの?」「ごめん、兄ちゃん………わたし、行かなきゃ」そう言い残して、理は走り去ってしまった。 環の贈った麦わら帽子が、風に乗っていき、何処かに吹いていく様子は、いつの日か味わった、離別を思わせた。「財布…これ、そーちゃんのだった」