大丈夫だから、と天を安心させるかのようにもう一度天に擦り寄ると、天を邪魔しないためにか、陸はゆっくり瞳を閉じた。そんな弟の可愛らしい動きに、天はこつん、と自身の肩に載った陸の頭に少しだけ首を動かし自分の頭を載せ返してやってから、視線を日記帳へと戻していく。"20××年3月2日 親愛なる日記さんへ。この前日記を書いていたら発作を起こしてしまって、それ以来入院しています。母さんに頼んで、日記帳を病院に持ってきてもらったよ。ようやく、天にぃが連日のようにテレビに写る環境に慣れてきた。母さんと父さんは何も言わない。前と一緒で、オレが天にぃを罵倒すれば、悲しそうな顔をするだけだ。でも、きっとテレビを見ながら泣いてるんだろうな。嬉しさと、悲しさで。最近、また悪夢を見る。天にぃがオレを置いていった夢。最近は見てなかったのに。オレを置いていって、オレのことを振り返ることなく、TRIGGER、として、笑うんだ。酷いと思った。オレはいつか、天にぃと歌いたかった。天にぃの隣で一緒に、天にぃみたいに。それがオレの夢だった。だから治療も頑張った。どれだけ喉がオレを苦しめても、天にぃが隣にいて、天にぃといつかってそんな夢を持っていたから頑張れたのに、もう頑張れない。先週、病室で発作を起こした時に、そう思って、ナースコールを押すのもやめた。このまま死んでしまえば、天にぃは帰ってくるのかもって思って、誰も呼ばなかった。結局、近くを通りかかった看護師さんに気づかれて、意識は失ったけど、なんとか、なったんだけど。"「…」天は顔を真っ青にして、一度陸を見下ろした。陸は天の息を呑む音も聞こえているだろうに、目を閉じたまま、天に体重を預けて動かない。「天にぃ、続き、読んでね。謝らないよ、ナースコール押さずに死にかけたこと…。天にぃのせいでもない」何か言いたげに、天が自分を見つめている気配を感じたのだろうか。陸は目を開くことなく、抑揚のない声でそう呟いた。 何を、バカなことを。父さんと母さんが、ボクが、どれだけキミに生きてほしいと願ってきたと思っているの。どうして、ボクみたいな、振り返りもせずに家を出ていった兄のせいでキミがここまで追い詰められているんだ。ボクなんかさっさと忘れて、どうして自分の人生を大事にしてくれなかったの。 陸にそう怒鳴りたい衝動に駆られて、天はそれでも13歳まであんなに陸を大事に大切にしていた自分自身が陸を縛り付けていて、そのせいで陸は自分がデビューした時に絶望したのだと分かっていたから、その衝動を堪える他なくなる。 天はゆっくりと、視線を日記帳へと戻した。