「ぃっ……?」
「大人しくしててね……」
「きっ……、きゃぁぁぁぁっ……、お、おばさんっ、おばさんっ! とじこめられ
たっ! おばさんっ!」
太い腕の中でもがき、車体の傍を通る自転車の女性に必死に助けを求める唯花だ
ったが、大音量でステレオが鳴らされ、カーテンを閉められた車の中からでは、悲
鳴も唯花の姿も外まで届かない。
いつも携帯している防犯ブザーも、ランドセルに付けっ放しで家に置いてきてし
まっていた。
ただ、それがあっても、こうも鮮やかに連れ去られてしまうと、もうどうしよう
もなかったかもしれない。
「静かにしろっ……」
「ふぅぐっ……!」
後部座席にいた男が、唯花の口を塞ぐ。30過ぎの小太りの中年男性だった。
「まだヤるなよ。ウチに着いてから、平等にだぞ……」
ドライバーの男が後部座席の男に釘を刺す。こちらも、30くらいのサラリーマ
ン風の男だ。こちらは眼鏡をかけている。
「分かってますって……。動けないように、縛るだけですよ……」
「い、ぃやぁっ、な、なにっ、おじさんっ!? いやっ、助けて、はなしてぇっ…
…!」
「動くなよ、殺すぞ、お譲ちゃん……」
「ぃやっ、ぃやぁっ!」
がぶっ。
「いてぇっ!」
必死の抵抗を試みる唯花は、無我夢中で男の腕にがぶっと噛み付いた。
ただ、それは結果として男の怒りを買う事となってしまう。
「このっガキ!」
男は噛み付かれた腕を、唯花の頭ごと座席の肘置きに叩き付けた。
「ぃっ……」
ゴツーンと唯花の脳に衝撃が走り、目の前の世界が回転する。
その中心で、男が更に腕を振り上げているのが見えた。
「ガキの癖にっ!」
「ぃっ、ぃやっ……」
反射的に掌で頭を庇い蹲る唯花に対し、小学生の女の子の小さな身体に対し、容
赦なく握り締めた拳が叩き込まれる。
「ぃたっ、いたぃ、だれかっ、たすけてぇっ!」
「ガキがっ、ガキがっ!」
「ひぃっ、だいぃぃぃぃぃっ……!」
ドカッ、バキッ……。
止む事の無い暴力に、唯花は徐々に抵抗の意思を無くし、震えて動かなくなった。
「おい……、死ぬぞ。もうやめとけ……」
「はっ……!?」
「ぅぅ……」