支えてやらなければ倒れてしまうであろう凜の細い体を、俺は腕の中に抱く。
凜「はあっっ――はぁぁっっっ――はぁぁっ――」
まだ荒い息が収まらず、可憐な唇を細かく震わせて速い小さな呼吸を繰り返している。同時に、その豊かな胸が大きく上下に揺れていた。驚きと恐怖に見開かれている凜の瞳から、昇りつめた絶頂の大きさが伝わってくる。俺は、しっとりと汗ばんだ凜の頬を撫でてやり、その指を、おなじく汗で髪のはりついたうなじにそっと這わせてやった。凜「んっ、あっっ――! はぁ――はぁ――」快感の余韻を呼び覚まされ、びくびくっと腕の中で身を震わせる凜。迅(――可愛いものだな)自分の技術で落とした女をこうして愛しむのは、まさに痴漢の醍醐味といえるだろう。迅「驚いたか? 気持ちよかっただろう?」凜の瞳が、こっちを見上げてきて、それからコクンと素直にうなずく。迅「――カノン様、とやらと比べても、か?」一瞬、凜が驚いた顔をして――それが事実だと自分でも気がついたのだろう。複雑な表情をして、うなずく。迅「気にすることはない。俺も驚いている」凜「ど、どういうこと――?」ようやく息が収まってきたのか、凜が問い返してくる。迅「痴漢する相手は、誰でもいいというわけではない。きちんと“素質”がなければダメだ」迅「――お前の中には、素晴らしい『牝』の素質が眠っているように思える」正直をいえば、『レイヴン』の隊長を落とす、という目的に熱くなっていて、まさかその女が、これほどまでの資質を秘めているとは予想もしていなかった。狂信的な男嫌いで、しかもレズビアンの相手に、それを期待しろという方が無理な話だ。迅「俺は、それを目覚めさせたい。お前の才能を――『牝』の血を、完全に開花させてやりたい」凜「あ、ま、待って!」
そこで、電車が駅にとまる。俺は、凜が一人で立てると判断すると、その体を離して降りる人の流れに紛れ込もうとする。迅「――その目的を達するまで、何度でも、俺はお前の前に現れるだろう」また会おう。そういって凜を電車に残し、俺は立ち去った。………………………………凜(な、なんだったんだ、今のは――)
電車を降りていく人ごみの中にまぎれ、その男の背中が消えていく。