だが、いくら同じやりとりをループしたとしても、別れるのだけは譲れない。 また佳世が浮気するんじゃないかとずっと疑いながら。 池谷とどんな行為をしたのかなんて、したくもない想像をさせられながら。 俺と一緒にいた長い月日を、バスケがうまくてカッコイイだけの池谷にあっさり否定される屈辱を味わいながら。 それでも一緒にいられるほど、俺はマゾじゃないもん。 あと、なんで佳世がこんなに俺に執着するのか本気でわからんわ。 俺と別れてただの幼なじみに戻ったって、別に池谷とつきあえばいいだけじゃねえか。そうすれば今まで通りヤリまくりの日々を送れるわけで、何も変わらないんだし。 ………… あ。 そうか、そういえば一応池谷にも白木さんという彼女がいたんだっけ。修羅場の雰囲気に流されて頭から吹っ飛んでた。それを知ってるから、俺と別れても大っぴらにつきあえないから、だから俺に執着してるわけ? クッソ。やっぱり佳世は俺のことなんて見てねえ。はっきりと思い知らされたわ。こいつは自分の身の振り方を案じて、世間体を気にして、形だけでも俺との付き合いを優先させてるだけに違いない。 ………… そうだよな。 佳世は、俺だけじゃなく、白木さんも不幸にした。 俺が味わったこの屈辱を、白木さんにも与えるような行為をした。 なぜだろう。 あらためてそう考えると、そのことが俺の中でとてつもない怒りに変わった。 俺よりも白木さんを不幸にしたことの比重が、やたらと大きかった。 ──もうこいつらのことを許せるわけもない。「佳世、おまえさっきから俺にしか謝ってないけど、おまえさ、池谷にも彼女いるって知ってるよな?」「!!!」「おまえたちのやってる行為は、その彼女も不幸にしているってこと、わかってるんだよな?」「あ、あああ、ごめんなさいごめんなさい、浩史……くんが、その彼女とは、キスもなにもないって……だから問題ないって……」「いや、問題ありまくりだろ。まだ別れてないんだし」「で、でも、そのうち別れるって……佳世のほうが好きだから、俺は佳世を抱きたいって……」 土管! 俺は思わず自分の机を蹴っ飛ばした。 足がめっちゃ痛いがそれよりも怒りのほうが大きい。アドレナリン飽和状態だ。あ、机の横がへこんだ。あとで損害賠償請求しとこう。 俺の顔はその時、おそらく鬼の形相になってたと思う。 公園で号泣していた白木さんの姿が、あまりにも哀れすぎたのを思い出してしまったから。「おまえらなあ! 本当に順序が逆なんだよ! それなら俺と別れて、池谷も彼女と別れてからそういうことをするのが筋だろうが!!!」