第101話 怒り『サルニルカ島』の最奥部で、なんとか何も失わずに全てを終えた後で。僕はユーリと向き合っている。 目の前に立つユーリは、少し顔色が悪いように見えた。目元に隈が見える。身体も、少し痩せたのかもしれない。ユーリは意外に自分の体重のことを気にする娘だったけれど、今の表情を見るにきっと望んだ痩せ方ではないのだろう。 聖都でルルエファルネに言われた言葉を思い出す。ユーリは聖都で僕と再会して、塞ぎ込んでいた。――顔色も目の隈も、痩せたことも、僕が原因なのだとしたら。そう思うだけで、胸の中で判別しがたい感情が渦巻く。何を苦しんでいるのか。僕を不要と断じたのは、彼女であるはずなのに。 胸の内の思いを抑え込みながら、じっと前を、ユーリを見る。ユーリもただ僕を見ている。 昔なら、こうして向き合っているとすぐにユーリが、どうしたのと言って首を傾げるか、楽しげにいたずらっぽく笑うかしてくれたのに。そんな彼女に、僕もすぐに笑い返せていたのに。もう何もかもが変わってしまっていた。悲しくはないけれど、少しだけ切なかった。「……ロージャ。聞きたいことは、たくさんあるのだけれど……ひとつだけ、教えて」 息を整えたユーリが口を開く。声だけは昔と変わらないように聞こえた。芯のある、真っ直ぐな声。「あなたはどうして、まだ、こんなところにいるの。どうして……まだ、戦っているの?」 ユーリの声に、僕を問い詰めるような糾弾するような響きはなかった。ただ、僕が此処にいないでほしいと思っていることは明白だった。ユーリはただ一心に僕を見つめて、僕の答えを待っている。 どうして戦っているのか。そんなこと、もう悩むまでもない。自分の強さにまだ自信はなくても、その一点だけはもう迷わない。「ユーリ。僕は何も、変わってないよ」