「ふむ、それは初耳ですね……つまり名前にソラをつければいいのか? ソラリ、ソラーラ、ソラン?」 試しに色々と名前を口にしてみると、ワイバーンの反応は悪くなかった。少なくとも「ダイゴ」の時よりは目に光がある。「ソラミチ、ミソラ、ソラト、ソラリス……ううむ。もうちょっと、こう、かっこいい名前はないものか」「ぷぎ、ぷぎ」「待て、急せかすな。いま喉元まで出かかってるんだ。ソラサ……ソラシ……ソラス………………おもいきってソラ太郎というのはどうだろう?」「ぷぎぃ!」「あ痛いた!? こら、尻尾で叩くな! 悪かった、ごめん、ちゃんと考えます!」 そんな風にワイバーンと戯れていると、女性が何事か思いついたように、ぽんと手を叩いた。「クラウ・ソラス、というのはいかがです?」「……クラウ・ソラス?」「はい。古いにしえの言葉で炎の剣を意味します」「おお、かっこいい! 炎というのもワイバーンにぴったりですね。お前はどう――って聞くまでもなさそうだな」「ぷいー!」 ワイバーンは羽をばっさばっさと震わせて喜んでいた。埃ほこりが飛ぶからやめなさい。「よし、お前は今日からクラウ・ソラスだ!」「ぷぎ!」 俺が宣言すると、ワイバーンが長い首をくっと立てて鋭く吼えた。 気のせいか、こころもち表情が凛々しくなった気がする。 そんなワイバーン――もといクラウ・ソラスの首を軽く撫でてから、俺は女性の方に向き直った。「良い名前をいただき感謝します――えーと……」「アストリッドといいます。こちらこそ、色々と興味深いことを教授していただいて感謝します。ええと……ソラ殿、でよろしいでしょうか?」「はい、ソラと申します」「では、ソラ殿。かなうならもう少しお話はなししたいところなのですが、あいにく人と会う約束がありまして、今日はここで失礼させていただきます。また近いうちにお会いしましょう」「はい、いずれまた――近いうちに?」 再会を確信しているような相手の言葉に引っかかり、目を瞬かせる。 すると、アストリッドと名乗った女性はくすりと微笑むと、すらりと長い人差し指を唇の前に立てた。「その際は、今日のことはどうかご内密に。それでは失礼いたします」