「お、可愛いじゃん」 一織が小さなブーケを手に店を出ると、外で待っていた三月が顔を綻ばせた。 「喜んでくれるといいな」 「はい」 一織と三月は病院のすぐ近くの花屋に来ていた。一織が見舞い用であることを告げると、店員は匂いの強くないものを選んでブーケを作ってくれた。少しでも病室が明るくなるように、ピンクやオレンジ色を中心にした優しい色を集めている。 今日は花束の他にも、陸の好きな作家の新刊本を持ってきた。喜んでくれるだろうか。小さな期待に胸が弾む。 受付をくぐり病棟へと進む。病室のドアをノックをしたが返事はない。三月と顔を見合わせ、そっとドアを開ける。 陸は眠っていた。この時間に寝ているのは珍しい。 「リハビリで疲れたんだろうな」 三月が陸の肩に布団を掛けてやりながら言った。確か今日はリハビリで初めて歩行練習をする日だ。ずっと歩いていなかったのだ、きつかったに違いない。 持ってきた花びんに水を入れ、枕元にそっとブーケを生ける。眠っている陸は、カニューレを着けられていた。数日前に取れたはずだが、発作を起こしたのだろうか。後で看護師に聞いてみようと考えていると、陸が身じろぎした。 「ん……」 「お、悪い。起こしたか?」 「みつにぃ……いおり……?」 「陸兄さん。おはようございます