「知らない男と口きいちゃいけませんってか?」 口の端を吊り上げて、貴明が喰う。 「ここで待ってるように言われただけです」芯のある、しっかりと落ち着いた声音だった。硬質なのに、なぜか、ひどく耳触りがよか った。 (──悪くない) はっきりと琴線に触れた。 ......響く。 そう、響いた。彼女の真っ直ぐな眼差しが、胸のどこかに。 好みのタイプのど真ん中とはとても言えないが、なんだか妙に目が離せない。そんな感じだった。 「ふーん。そうなんだ?」 「......あなたは?」 「あれ? 俺のこと、知らない?」彼女は迷う素振りも見せずに頭を横に振った。 「そっかぁ......。俺もまだまだってことかもな」 なんたって、ド新人だし? と──そのとき。バタバタと足音がした。 「『タカアキ』君。すみません。お待たせしました」 息を切らして加藤マネが貴明を呼んだ。