「あのー…絵里ちゃん?今なんて言いましたか?」
「歳の数だけ穂乃果をいただきますって言ったのよ」
「いや、わかっているんだけどね、わかっているんだよ?でもなんで穂乃果が食べられないといけないのかな?」
「あのね穂乃果、節分の日っていうのは各季節の始まりの日の前日って言う意味の他に、豆を撒いたり豆を歳の数だけ食べたりして厄除けを行う日なの」
「うんうん」
「ってことで今日は穂乃果のお豆いただいていいかしら?」
「いや意味がわからないよ絵里ちゃん!」
「そうです。意味がわかりません」
「海未ちゃん!」
今まで二人の話を静かに聞いていた海未が口を開いた。その様子に絵里を正してくれるのではないかという期待を抱く穂乃果だったが……
「穂乃果をいただくのは絵里ではなく私です」
「海未ちゃぁぁん!!」
そんなことがあるわけもなく、穂乃果の期待は音を立てて壊れた。そして海未の言葉に便乗するように他のほのキチ達も動き出す。
「そうだよ絵里ちゃん!穂乃果ちゃんはことりと海未ちゃんのお豆なんだから食べちゃダメ!」
「いやいやことりちゃん何言っているの?」
「そうやでみんな。穂乃果ちゃんは今日うちと一緒に節分の日を過ごすと良いことあるってカードもいっとるよ」
「希今カード持ってないでしょ?」
「ばれた?」
「凛も穂乃果ちゃんと一緒に豆まきしてお豆食べたいにゃー!」
「穂乃果ちゃんのお豆…どんな味がするんでしょうか……」
「花陽ちゃん目が怖いよ!?」
暴走してきたほのキチ達。その光景をにこと真姫は少し呆れ気味で見つめていた……かに思えた。
「…ねぇにこちゃん、穂乃果ってMな感じあるわよね?」
「感じというかMでしょ穂乃果は」
「豆まきでよく誰かが鬼役やって豆投げつけられているのあるじゃない?」
「あるわね」
「穂乃果なら……喜んじゃいそうよね」
「…真姫ちゃん、顔がすごくニヤけているんだけど」
「にこちゃんだってなんか思いついた顔したくせに」
「思いついたというか……面白そうだと思ってね」
「面白そう?」
「恵方巻き食べるじゃない?それで、下の口にも……ってこと」
「…いいわね」
ほのキチ達が言い争っている中、少し外れた場所ではそんな怖いことを話し合っていることを、穂乃果はまだ知らない。
「でっ…どうするん?このままやとらちがあかんで?」
「……しかたないわね」
「そうですね…」
「(諦めてくれたのかな…)」
「しかたありません、今年の節分は希の家で行うことにしましょう」
「えっ?」
「さんせーい♪」
「うちはいつでも歓迎するで」
「二人きりの節分は…来年に繰越ね」
「みんなでお泊りにゃー!」
「楽しみだね凛ちゃん!」
「(あっ…もう穂乃果に拒否権ないみたい)」
今までの経験を踏まえ、拒否しても敵わないと思った穂乃果は大人しく従うのだった。ほのキチ達の行動は、年が明けてから一層激しくなっている。花陽すら穂乃果のことになるとアイドル関係並みの性格の変貌を遂げている。
「にこっちと真姫ちゃんもくるやろ?」
「別に、行ってもいいけど」
「まっにこも行ってあげてもいいわよ」
「二人とも素直じゃないにゃー」
「では、練習が合わり次第準備して向かいましょうか」
時間が経ち、練習後‐‐‐‐‐
「「お疲れ様ー!!」」
「…?そういえば穂乃果ちゃんの姿が見えないんだけど……」
「屋上かトイレにでもいるのではないですか?」
「…ないわ」
「えりち?」
「穂乃果の練習着と制服が……ロッカーにないわ」
「「…」」
逃げられた!!!??
無駄だとわかっていても、穂乃果の抵抗は続く。
「…」
逃走を図った穂乃果はと言うと、一人生徒会室の机の下に隠れていた。
「(…みんな学校からでたかな?)」
「…ふぅ……。危なかった。いくら私でも、いつもみんなの勢いに流されていたら体持たないよ。みんなには悪いけど、少し時間おいて家に帰ろうかな。」
そう思い、穂乃果は学校をでるため生徒会室を後にしようとした。
「明日が怖いけど、頑張るしかないよねぇ…。そうだよ、時にはしっかりと絵里ちゃんたちに抵抗することが重要なんだよ!よし、明日からは人に厳しくいこう」
「へぇ穂乃果が人に厳しく、ねぇ…」
「そうだよ!明日からは絵里ちゃんたちに厳しくあたって……って、へ?」
生徒会室を出て、少し油断して独り言を喋りながら学校を出ようと廊下を歩いていた穂乃果は気付いていなかった。8人が学校から出ていなかったことに。そして見つけられたときには周りを囲まれていることに。
「穂乃果どうしたのですか?いつの間にか部室から穂乃果がいなくなっていたので、探したのですよ?」
「あっ…ははは……ご、ごめんね海未ちゃん、ちょっと生徒会室に忘れ物を取りに…」
「忘れものねぇ…」
「うっ……ごめんなさい…」
「別に謝らんでもええよ穂乃果ちゃん。あっ!じゃぁこうせえへん?」
「希ちゃん?」
「穂乃果ちゃん、逃げてもええよ」
「…えっ?」
想いもしない返答が帰ってきて焦る穂乃果。けれど結局は……
「うちらが全員で鬼やるから、穂乃果ちゃんはこの豆もって逃げながら撃退して。けれど、もし捕まったら……鬼やから好きにさせてもらうで?」ワシワシ
「えっと…豆を一つでもぶつけたら穂乃果の勝ちでいいの?」
「?豆を少し当てられただけで怯むと思うのかしら?」
「ですよねぇ…」
「はい、じゃぁスタート!」
「うぇぇ!?」
「さぁ穂乃果、おとなしく捕まりなさい!!」
「そう言われて大人しくなんていられないよ海未ちゃん!!」
掲示板の廊下は走らないを無視する走りっぷりをみせる穂乃果。が…8対1で、ましてやこの8人相手に穂乃果が敵うはずもなく、先で待ち伏せしていたことりに呆気なく捕まるのであった。
その夜、希宅では豆を食べながら穂乃果の豆もおいしくいただいたとか。