黒い筒から風を噴出し、それで推進力を得たオーガーの動きは正に疾風。板金鎧で武装した騎士も一瞬で引き裂く怪力にスピードが加わっては、普通なら無敵だろう。 しかし、この異形のオーガーの相手は疾風より早く動ける者ばかりだった。「まず、首刎ねる! 【刃閃】」 真正面から突っ込んだブラガが、オーガーの首を片刃の剣、ニンジャ刀で【短剣術】の【武技】を発動し、切断する。『っ!? だいいぃぃぃぃ!』 首を失った異形のオーガーは、切断面から血を撒き散らしながらも止まらない。それどころか、全身から骨や肉が歪む鈍い音を発しながらボコボコと醜く変異させながら、マイルズとアイラに向かって両腕をそれぞれ向けた。『本体ィィィィィィ!』 そして、黒い筒からそんな叫び声にも似た音をさせたかと思うと、左右の腕から空気の渦を放つ。腕から生えた黒い筒の角度を調整し、横向きの風の渦を作りだしたのだ。 平行に放たれる二本の風の渦に巻き込まれれば、吹き飛ばされてボロ雑巾のようになってしまうだろう。『変身! 【俊水即応】! そして内臓を破壊する!』 その渦を、変身装具と【変鎖鎧術】を発動させたアイラが紙一重で回避し、その速さと怪力に任せて剣を胴体に叩きつける。『■■■!? 宿主の維持が不可能、りだつ、りぃぃぃだああああ』 腹を大きく薙がれ背骨を両断された異形のオーガー……オーガーだった存在は、大きく変貌した。体中にあった黒い筒がより長く太くなり、肉と皮膚を割く。オーガーの体内に寄生していた【魔王の欠片】が分離しようとしている。「そして、フィニッシュ!」 だが、マイルズが掌に乗る程度の大きさの箱を取り出して、【魔王の欠片】の懐に飛び込んだ。『あああああ!? 本体イィィィィィ!』 【魔王の欠片】は抵抗しようとしたが、宿主を失った欠片自体には大した力はない。悲鳴をあげながら箱の中に吸い込まれていった。そして箱と同じくオリハルコン製の鎖が巻き付き、封印が完了する。「ふぅ……ボス、封印できたわよ」 マイルズが振り返ると、オーガーより大きいアルマジロに似た謎の生命体が、ヒレ状の前足で拍手をしていた。『皆、良く出来ました。じゃあ、十五分休憩を挟んでもう一回やりましょうか』 謎の生命体は、ヴァンダルーの分身にして使い魔、使い魔王だ。「次も【魔王の気門】か? それとももう一つの【魔王の蹴爪】か?」『同じ欠片に慣れるのはよくないので、【魔王の蹴爪】でいきましょう。宿主は秘密ですけど