10. 亡国ロリ姫様の二穴陵辱
シラエとアカネに挟まれて目を覚ました俺は、二人を起こさないよう気をつけながら集会所を抜け出した。
朝日の下で大きく伸びをしていると、後ろからロザリアがやってきた。
「あんた、あんなハーピー相手によくもまあ発情できるもんだねぇ」
どうやら昨夜のフェラチオの音を聞かれていたようだ。
本当はシラエもいたのだが、そこまでは気づいていないようだった。
知られたら何を言われるか分かったもんじゃないから、ここは黙っておこう。
俺は話題を変えるつもりで、ロザリアにこれからのことを尋ねてみた。
「あたしは本当なら夫の伝手を頼って、東の方にある町に行くはずだったんだけどねぇ……。その夫があの野盗どもにやられちゃたから、行く当てなんてないさ」
「他の連中はどうなんだ?」
「半分くらいは行き先が決まってるけど、もう半分はあたしと同じだよ」
どうやらこの先のことを決められずに悩んでいる者も多いようだ。
「俺たちはこれから北へ向かって、国境を越えてグノハルトへ行くつもりだ。細かい面倒までは見れないが、ついてきたければ来てもいいぞ」
ここまでの道中、ロザリアたちが子供の世話を焼いてくれてこちらとしても大いに助かっていた。
だからこの先も俺たちに同道したいというなら、歓迎してやるつもりだ。
「グノハルトかい……。でも国境には検問があるけど?」
「それはどうにかなるだろう」
ルーン魔術のゴリ押しでな。
「わかった。そのことはみんなに言っておくよ」
ロザリアと話しているうちに子供たちも起きてきて朝食になった。
食事が終わったあたりで、領主の娘の部下だという男がやってきた。
「引き渡す食料の件でちょっと問題が起きた。一緒に来て確認してくれ」
「問題ってのは?」
「詳しくは行った先で話す」
「ふぅん、そうか?」
俺はちょっと準備をしてくると言って男をその場に待たせ、集会所の奥で身支度を整えたりしてから戻った。
男に案内されて町の外れにある木造の倉庫へと向かう。
ここに食料が備蓄されているのだそうだ。
両開きの大きな扉を開けて男とともに倉庫の中へ入る。
仕切りのない広い空間の中、壮年の男が一人で樽の前に立っていた。
「ああ、朝からすまないね。ちょっとこの燻製肉の確認をしてもらいたくて呼び出したんだ」
壮年の男は申し訳なさそうに言って、樽の中から燻製肉を一切れつまみ出した。
「その肉がどうしたんだ?」
「味見をした者の中に、肉の味が変だと言う者がいてね。私が食べてみた感じでは特におかしな味はしなかったんだが。それで一応、引き渡す前に君にも確かめてもらいたいんだ」
壮年の男は手にした燻製肉を俺に差し出した。
見た目におかしなところはない。
しかし俺は受け取らずに壮年の男へ言った。
「もう一度あんたが食べてみてくれ。それでも問題がないようなら俺も味見をしよう」
「……いや、私はすでに一度食べているから」
「勘違いってこともある。人の味覚なんてけっこういい加減なものだからな」
「そ、そうか。なら確かめてみようか」
壮年の男は空いている手で樽から新しい肉をつまもうとした。
「どうして今持っている肉を食わない? 食えない理由でもあるのか?」
「いや……それは……」
壮年の男はあきらかに挙動がおかしかった。
ここへ案内してきた男が背後でゆっくりと動き、俺から距離をとろうとしている。
「その肉には毒でも仕込んでいるのか?」
ほとんど確信を持って言ったその時、倉庫の外で複数の足音が上がった。
俺がその場から横に跳んだ瞬間、風を切る音がして何かがすぐ脇を通り過ぎていった。
外れた先で積まれた木箱を叩き割るほどの威力を見せたそれは、ボウガンの矢だった。
倉庫の入り口から剣や槍を手にした男たちが10名ほども入ってくる。
いずれも歳がいっている男ばかりだ。
戦争に男手を取られたという話は本当のようだ。
しかし歳をとっている分経験があるのか、武器を手にした男たちの姿は様になっていた。
「どういうつもりだ?」
俺が低い声で問い質すと、男たちの背後に領主の娘が姿を見せた。
「話はすべて聞いた。お前が国によって召喚された勇者であることも、連れている子供の中にアナ王女殿下がいることもな」
「ちっ、口止めしておいたのにな。誰が漏らしたんだか」
「お前が連れて来た女の中に、この町の出身者がいたのだよ」
なるほど、それは迂闊だった。
「それであんたらは王女様を救い出すために、身を擲なげうって俺と戦おうってのか?」
俺が揶揄するように言うと、領主の娘は苦しげに顔を歪めた。
「王が討たれ、王都が陥落した今、王女殿下に忠誠を見せたところでどうにかなるものでもない。殿下には魔族軍がここへやってきた際の交渉材料になってもらう」
「ふん、王女を引き渡す見返りに、町の保護を約束させるのか?」
「その通りだ」
「なら、王女を渡すから俺たちのことは逃がしてくれと言ったら?」
一応聞いてみると、領主の娘は更に苦々しい顔をして唇を噛んだ。
「……駄目だ。あの子供たちも場合によっては交渉材料にしなければならない」
「なんだと?」
「お前も言っていたろう、あのくらいの歳でも暴行の対象になると」
「……まさか、やってくる魔族軍にあいつらをあてがうつもりか?」
「外道と謗るなら謗れ。私たちはこの町の住人をなんとしてでも守らなければならないのだ。そのために手を汚す覚悟は出来ている!」
これは驚いたな。まさかここまでエグいことを考えていたとは。
とは言っても、それでこいつらを外道呼ばわりするつもりはない。
誰だって身近な人間が大切だし、非力な身では守れる範囲なんてたかが知れている。
俺だって同じだ。だから容赦するつもりもない。
領主の娘と話している間に、ボウガンの再装填が終わったようだ。
会話はこのための時間稼ぎだったか。
しかし俺の方も話している間にポーチから符を取り出している。
「止めておけ。武器を捨てれば命は助けてやる」
「自惚うぬぼれるな! 勇者とはいえ魔術師なら、こちらも戦い方は心得ている!」
そう言って領主の娘は首から提げていた小さな笛を吹いた。
するとその笛の音が合図だったのか、途端に周囲から音が消えた。
それまで聞こえていた男たちの武器の音や足音が、きれいさっぱり耳に届かなくなっていた。
これは消音の魔術か? しかしなぜ?
こちらが戸惑った隙に、男たちは無音の中を動いて俺を半包囲した。
男たちの表情に余裕が見えるのは、この無音状態が俺への有効な戦術だと確信しているためか。
こいつら多分、俺のことを詠唱魔術師だと勘違いしているな。
だから周囲を無音にして詠唱を封じれば無力化できると考えたのだろう。
確かに魔術師と言えば詠唱魔術師が一般的なはずだから、知らなければ俺の事もそうだと思い込んで不思議はない。
しかしそれにしたって、肝心なところで詰めが甘いな。
ま、嵌はめられている俺が言えた義理でもないけど。
なんにしろもう戦いは止められない。
男たちの輪からボウガンが発射されると同時に俺は魔術符を投げた。
射手の腕が良かったのか、避けたつもりの俺の胸にボウガンの矢が命中した。
しかし矢は鉄の壁にでも弾かれたように跳ね返され、くるくる回って地面に落ちた。
今の俺はいつもの『防刃』『防毒』のルーンに加え『防矢』『防槍』『防打』『防炎』『防凍』『防麻痺』『防精神操作』などかなりの数の防御系ルーンを発動させている。
いずれも念のために予め仕込んでおいたものだ。
もちろん魔力消費はかなりのものになるので、長時間は使えない。
だから防御が万全なうちに迅速に敵を処理する。
俺が投げた符の中に『追尾麻痺』は含まれていない。
すべて殺傷力のあるものばかりだ。
俺を中心とした半円上で、爆発や血飛沫が派手に巻き起こった。
絵面の派手さの割りに、消音の魔術によって一切の音が聞こえないため、それはひどく現実感の薄い光景だった。
武器を持った男は一人残さず仕留めた。
10個の無残な死体が転がり、その向こうで領主の娘と俺に毒を盛ろうとした二人が固まっている。
「うわああぁぁっ?!」
唐突に消音魔術が破れて、大きく開いている扉の外に男が墜落してきた。
変な角度に手足を曲げて痙攣している男の上に、ふわっと茜色の翼が舞い降りてくる。
「オトシタヨ。アカネエライ?」
「ああえらいぞ、よくやった!」
男を足の下に敷きながらアカネが可愛らしく笑っていた。
ここへ呼ばれる前に、保険としてアカネには上空から俺の周囲を見張っておくよう言いつけていた。
おかしな真似をする奴がいれば襲っていいとも言っておいたから、屋根の上にでも潜んでいた魔術師を見つけて追い落としたのだろう。
「あ、ああ……ディック……ガルド……」
領主の娘は死んだ男たちの名前らしきものを呟きながら、ぺたんと尻餅をついた。
色を失った顔を見るに、完全に心が折れたようだ。
他の男二人も泣きそうな顔をしてガタガタ震えている。
俺は領主の娘の前に立つと、その襟首をつかみ上げた。