その意味で、ラーズが故郷のメルテ村に戻ることを決めたのはよろしくなかった。 メルテ村にはイリアがいるからだ。 二人が別行動をとるように仕向けたのはつい先日のこと。ミロスラフとしてはラーズを別の場所に誘導したかったのだが「リーダーである俺の口からイリアに今回の顛末てんまつを伝える」と言われてしまえばうなずくしかない。 後になってミロスラフに謝罪された俺だったが、実のところ、俺はこれを聞いて喜んだ。 ラーズと再会すれば、おそらくイリアはなんのかのと言いつつ和解するだろう。 結果、イリアを手に入れるという俺の目的は大きく遠ざかってしまうわけだが、かわりに得るものもあった。 それは何かといえば――ずばり、イリアの母セーラ司祭にかわる村の神官である。 メルテ村で出会ったセーラ司祭は、様々な意味で俺の心に強い印象を残している。 母の役職を娘が継ぐのはよくある話。そうなればセーラ司祭をイシュカに招く障害が一つ減ることになるわけで、俺としては万々歳である。 いっそ俺の方からその話を切り出してみようか、とも考えた。 なにも今すぐメルテ村を出てイシュカに移住してくれ、と頼むわけではない。俺にはメルテ村を毒から救った功績があるから、それを利用すれば不可能な話ではないが……そういった恩の着せ方は下品である。 俺としてもセーラ司祭を恩義で縛りつけるつもりはないのだ。あくまで双方の合意の上で事を進めたい。 手始めに俺の家にご招待というのはどうだろう。 以前にクラウ・ソラスがらみで料理の話をしたことがあるから、それにかこつければ自然に誘うことができるはず。もちろん三人の子供たちも一緒に。 まあ、子供たちも一緒となると、クラウ・ソラスでひとっ飛びというわけにはいかなくなるので、往復の日数も増えてなかなか計画を立てづらいのだが……そこはそれ、じっくりと時間をかけて外堀を埋めていく所存である。