正直なところ、今の俺だったら大抵の攻撃は勁けいだけで跳ね返せると思っていたのだが、本気を出したゴズにかかっては思い上がりに過ぎなかったようだ。 その事実を認識した俺は、こらえ切れずに哄笑を発した。「ハッハハハハ!! すごいな、ゴズ! 今のはなんだ? 奥伝おうでん? 震しんの型かた? 見たこともない一撃だ! すばらしい一撃だ! これがお前の本気か!? あのゴズが……島でいつも俺を憐れみの目で見ていたあのゴズが、本気で俺と戦っているわけだ! 本気で俺に斬りかかってきたわけだ! ハハハハハ、アッハハハハハッ!!」 狂ったように笑いながら、俺は心装の力を発動させた。切り落とされた腕さえ復元する魂喰いソウルイーターの力をもってすれば、裂けた肉や砕けた骨、切れた神経を治すなどたやすいこと。 刃がめり込んだままの復元はめちゃくちゃ痛かったが、その痛みすら今の俺にとっては心地いい。笑いがどうしても止まらない。 あのゴズが俺に本気を見せた事実が嬉しくてたまらなかった。 その本気の一撃が、腕の一本も落とせないという事実がおかしくてたまらなかった。 あらためて実感する。俺はゴズ・シーマを超えたのだ、と。 ――正直なところ、自分でもここまでゴズに対して屈折した感情を抱いているとは思っていなかった。 たしかに善意からの憐れみには辟易へきえきしていたが、それも傅役もりやくとして俺を大事にしてくれているからこそ、と理解しているつもりだった。 実際、イシュカで戦ったときはここまで感情の箍たがが外れることはなかったし――いや、そうか。あのときはなんだかんだ言いつつ、まだゴズの方が強かったからな。魂喰いソウルイーターとの同調を深めた後半は反撃に転じることができたが、直後にヒュドラが出現したせいで戦いを中断せざるをえず、ゴズを上回ったという実感は得られなかった。 今、俺はようやくその実感を得るに至った。ヒュドラとの戦いを経て、はっきりと自分がゴズの上にいると確信したことで、たまりにたまった過去の欝念うつねんが沸騰しているのだろう。 俺は刃がめりこんだままの左手で、ゴズの偃月刀をがしりと握り締めた。 それまで無言で俺の狂態を見ていたゴズの牛頭の兜が小さく揺れる。武器を手元に引き戻そうとしたようだったが、偃月刀はぴくりとも動かない。「ぬ……」 ゴズがうめく。俺は喜悦の表情を浮かべながら、さらに偃月刀を持つ手に力をこめた。 ギリギリと。ミシミシと。何かがきしむ音がする。「若……あなたは……」「くく。その声、兜の下では冷や汗でも流していそうだな。じかにその顔を見るのが、今から愉しみだ」