真っ暗な紗夜ちゃんの表情を見て、わたしは何も言えなくなった。重い沈黙がしばらく続いた後、紗夜ちゃんが口を開く。「…丸山さんは、どうしてアイドルを目指しているんですか?」「憧れの人がいるんだ。わたしに勇気をくれた、太陽みたいな人」 わたしは手を軽く握って、紗夜ちゃんの問いかけに答える。「小さい頃、テレビで見たの。『誰だって、努力すれば夢は叶う。自分なんか、なんて思わないで夢を見てほしい』って言ってて。わたしもその人みたいに、人に勇気を与えられるようになりたくて」「そう、ですか。…誰かの為に、という所では私と丸山さんは似通っているように感じます」「え、どういうこと?」「私も音楽を…バンドでギターを弾いていて、目指すものがあるんです」「バンド?紗夜ちゃんが?」「意外ですか?」「意外だよ!バンドとかギターって、なんか怖い人達のイメージあるし…」「そうでもありませんよ。今組んでいるバンドメンバーも同年代の女子ですから」「へー…」 わたしと紗夜ちゃんって、本当に似てるのかな。気になったことを聞いてみる。「紗夜ちゃんも、目標にしてる人がいるの?」「ええ、まあ。…私の場合は夢とか憧れとか、そういう前向きなものではありませんが」 会話はそこで途切れて、紗夜ちゃんは黙々とお弁当を食べる。(誰かの為だけど前向きじゃない、ってなんなんだろう?) 新しい疑問が増えたけど、『この話は終わり』と言わんばかりにお箸を動かす紗夜ちゃんには聞けそうになかった。(どうしよう、思ったより痛くなってきちゃった…) 体育の授業中。バスケットボールが床で跳ねる音を聴きながら、徐々に強くなる痛みを堪える。昨日の居残り練習で捻った右の足首。その時は大丈夫だと思ってたけど、走ってるうちに酷くなってきた。ボールがコートの外に出て、プレーが止まる。コートの隅で手を膝に置いて一息ついていると、紗夜ちゃんの声がした。「丸山さん、右足を痛めているんですか?」「えっ、なんでわかったの?」「右足に体重をかけないように走っているのが、遠目から見てもわかります。悪化したら大変ですし、代わりましょうか」「ごめん、ありがと…。保健室、行ってくるね」