空、貴様ッ!」「お前もいちいち吼えるな、クリムト」 両の足に勁けいをこめて、素早くクリムトと距離をつめる。魂喰いソウルイーターはゴズの手を刺し貫いたまま――つまりは素手の攻撃だったが、手加減する必要がない分、かえってこの方がやりやすい。 最大戦力のゴズがいてさえ三人同時に相手をすることができたのだ。そのゴズを無力化した今、残る二人に脅威を感じるはずがない。 振り下ろされた倶利伽羅くりからの斬撃を左手で受け止める。直後、熱による激痛が脳天を突き刺し、人間の肉が焦げる嫌な臭いが鼻をついた――が、それだけだ。先ほどのゴズの奥伝おうでんの威力とは比べるべくもない。 ひきつるクリムトの顔を間近で観察しながら、俺は相手の隙だらけの腹部に右の拳を突き刺した。これでもかとばかりにたっぷりと勁けいをこめ、短く二度、三度と突き上げるように臓腑ぞうふを抉えぐる。 硬いモノが数本、まとめて砕ける音が耳朶を震わせた。硬いモノを数本、まとめて砕く感触が拳から伝わってきた。「ぐほぁ!?」 唾つばと苦悶と、血と胃液と。いろいろな物を吐き出しながら、クリムトが「く」の字に身体を折る。 素早く相手の腹から拳を引き抜いた俺は、痙攣したように震えているクリムトの背をめがけて思いきり肘を打ち下ろした。「ぐぶッ!?」 勢いよく顔から地面に叩きつけられたクリムトが、自身が吐き出した汚物の上で苦しみ悶もだえている。 そんなクリムトを冷たく見下ろした俺は、心装を握ったままの相手の右腕に鉄靴をのせた。 それを見て俺の意図を察したのか、クライアが慌てたように口を開く。「ま、待ってください、空そら殿!」「武器を持ったやつに待てといわれて、はいそうですかと待つバカはいないだろ」 暗に倶娑那伎くさなぎを手放せといってやると、クライアは慌てたように翡翠の長刀を地面に突き刺し、二歩、三歩と後ずさった。 もし俺がその気になれば、クライアに先んじて倶娑那伎くさなぎを手にすることができる――そういう距離である。 それを見て、俺はふんと鼻で息を吐いた。