「……落ち着いたか?」 「…はい…ありがとうございました…。」 吸入した後、呼吸が落ち着いてきて一点をぼんやりと見つめている陸に、隣に座った楽が声を掛けると、陸は楽の方を見て力無く笑ってお礼を言った。 壁に背を付けて体育座りのような座り方をしている陸を見ると、表情とは裏腹で、震える身体を何とか宥めようとするかのように二の腕辺りを強く握り締めていた。「あいつに何かされたか…?何であんなことになってた?」 「…忘れ物取りに戻って来て、そしたらぶつかっちゃって絡まれて……それだけです。」 陸のあまりの怯えように、他にも何かされたのではと考えそう問うと、陸は笑みを浮かべてそう言った。–––––あなたの思い通りにはならない…。–––––天にぃには…言わないで…。 陸が藍沢直哉に対して言っていた言葉。楽に対して口にした言葉。 陸の言葉が頭に浮かび、楽は疑問を抱いた。何か大事なことを見逃しているように思えて、本当にそれだけなのか、と問おうとした。しかし、陸を見た楽は驚いてその言葉を呑み込んだ。 何故か床に散らばっていた、潰れたお菓子を手に取っていた陸がぼんやりとそれを見つめながら静かに泣いていた。 瞳にジワリと涙が溜まり溢れ、頰を伝う。その姿があまりにも痛ましかった。 潰れたお菓子を見て泣く陸がまるで、大事にしていた宝物を踏み潰されて、その残骸を見ているかのように楽には思えた。