びくりと陸の肩は跳ねる。自分を呼んでいることは嫌でもわかる。背中を嫌な汗が流れていき心臓の音がやけにうるさく聞こえる。 「はい!」 友人が陸の変わりに返事をしてくれるが陸はそれどころじゃない。神様に届かない祈りを必死に捧げていた。 「その子の隣ちょっといいかな?」 「どうぞ!」 「ありがとう」 「いいえ!」 急にごめんね好みの子がいたからと天の天使のスマイルを出せば誰でもその笑顔の虜になり首を縦に振る。 「好みだって!やば!!陸!頑張んなよ!」 友人が耳打ちをし陸の側から離れていく。今だけは離れていかないでほしかった。 天は陸の横に座りもう陸は絶体絶命の状態である。 「何してるの?」 ここでと心の声が聞こえた。 「え、えっと…」 「こっちを見てほしいな」 「……」 「ねえ、キミの名前教えて?」 「りく…」 「陸って言うんだ。へえ、偶然だね。ボクの妹と同じ名前」 「………」天の突き刺さる質問に内心は叫びたい気持ちだがその叫びは声には出せず誰にも届かない。友人も陸の背中を押すように協力の体制に入っている。友人と目が合うとウインクされた。今はそんな気遣いいらなかった。 側から見れば天が陸をナンパしているようにしか見えない。楽はその光景に目を伏せてしまいたかった。天の怒りは頂点に達している。 七瀬がナンパしてるなんてと飲み会の仲間がざわついているがそれを何処か遠くで聞きながら楽は分かりやすくため息を吐いた。何か理由があるはずだと楽は冷静な頭で考えてはいるが陸のことになると冷静な判断が取れない天は今頭の中には怒りしかない。「陸」 先程とは違う声色に陸の身体は大きく跳ねる。そろりと天の方を見ると笑顔だ。怖い。顔は笑っているのに目が完全に笑っていない。「帰るよ」