NIGHTMAREの楽屋をバレないようそっと離れようとしたその時、ここに来た目的だった筈の赤いライターが緊張で緩んだ手から滑り落ちた。–––––…誰か居るのか? 扉越しにそんな声が聞こえてきた。 心臓がドキリと音を立て、全身から汗が染み出してくる。身体はどんどん冷たくなっていき、本能が逃げろと叫ぶ。 しかし、緊張のせいか、その声から感じ取れる恐怖のせいか、陸は動けなかった。 そして、文字通り悪い夢の入り口のように感じられる扉がガチャリと音を立てて開かれる。「…七瀬、陸…か。」 扉を開けたのは藍沢で、そこにはもう穏やかな態度で挨拶に来た藍沢の姿は微塵も感じられなかった。 感情を感じられない顔で、酷く冷たい声で陸を見て、名前を呟いた。「わ…!」 そして次の瞬間、藍沢は口角を上げて嫌な笑みを浮かべると、まるで獅子が兎を捕食するかのように、固まったままの陸の腕を掴むとそのまま自らの居る楽屋の方へ引きずり込んだ。 扉は無情にもガチンと重たい音を響かせ閉められた。