エリザベートがいなくなったことにより、迷宮魔物・タルタロスは崩壊を始めた。 先程まで無理やり魔力を注がれていたと思いきや、その供給源が唐突にいなくなり、急激な変化が生じたのだろう。そして、タルタロスはあくまで迷宮の魔物。自ら動くことはできない、巨大な食虫植物のような存在だ。 その怪物の絶叫を、ゲオル達は迷宮入口の少し離れた場所から聞いていると、ふとヘルが口を開く。「ゲオルさん……本当に放っておいても大丈夫なのでしょうか?」「無論だ。魔力供給の暴走で、既に奴は崩壊していた。そして、その供給源であるあの女もいなくなったわけだが、それは即ち、奴の再生能力を受けられなくなったということでもある。ならば、もうあれが助かることはない……が、もしもということもある。だから、こうして最期を見届けている」 何事にも絶対はない。かつてエリザベートを逃してしまった前科があるゲオルは、それをよく知っている。この迷宮の魔物も、取り逃してしまったゲオルの責任であり、故にその死を自分の目で見るのは当然だった。 迷宮の入口から聞こえてくる悲鳴を聞きながら、横たわるロイドはふと言葉を零す。「これで、全部終わり……って言いたいとこなんですけどね。自分的には一つ、気になることがあるんすけど……」「貴様がしぶとく生き残った理由か?」「いや旦那。そりゃ事実ですけど、言い方ってもんがあるだろう。人をまるで虫みたく言わないでくれよ……で、どうなんだ? 何か知ってるんだろ?」 問いを口にするロイドに、ゲオルは少しの間を空けながら、答える。「……かつて、エリザベート・ベアトリーには愛する男がいた。そして、その男には他のものよりも死ににくくする魔術をかけていた。それこそ、外に逃げても死なないようにな。自分の傍から逃げて死なれて元も子もないからな」 他の人間ならともかく、エリザベートにとって一番怖いのは、フーケの死。それを防ぐためにも、捕らえた女たちとは違い、自分の魔術の外に出ても死なないようにしていた、というわけだ。それを理解していたからこそ、ゲオルはフーケの身体を乗っ取る方法を取ったのだ。