白鷺さんがお腹を抱える。艶のある声も緊張感も跡形ない。 私は今、女優と話しているのだ。「ごめんなさい。ちょっとした息抜きよ」「……からかわないでください」 作られた表情が解かれる。私の知る――そして知らない――いつもの白鷺さんがいた。「今度の役の参考になったわ、ありがとう」「それならよかったですが……」 一体どういう役どころなのだろう。彼女はこの春で18になった。少し汚れた――色香の伴う仕事が舞い込み始めたのかもしれない。「初心なのね」「普通です……多分」「それにやっぱり、馬鹿正直」 否定も肯定もできなかった。「白鷺さんは、そういう……ご経験が?」「そういうって、どういう?」 唇だけが尚、艶めいている。いわゆる“キャラ”に合わず、いつも切り出せない話題だ。けれど内心気にはなっている。私の知らないところではみんな、どう過ごしているんだろうと。「そんな厳しい顔しないでちょうだい」 待てをかけられた状態で、つい表情に出てしまったらしい。「ねぇ。それは風紀委員として聞いているの?」 純朴に問いかける――ように見える――けれど彼女は、私の答えに思い当たっているはずだ。「個人的な、興味です」 恥を偲んで、馬鹿正直に応えた。「紗夜ちゃん、絶対言わないでね」「はい」「今度の撮影でね、きっとキスシーンがあるの」 彼女は柔らかく微笑んだ。「大変ですね」「親しくもない男性と唇を重ねるんだな、って」 穏やかに言う。視線は遠い。 単語の連なりを噛み砕いてみる。親しくもない、男性と、唇を、重ね――「――私より苦い顔になってるわよ」「少し想像してみたら……とても」「ないわよ」「え?」