「–––––陸。」 出番前、ステージ横で待機している時、大和は陸の後ろから声を掛けた。「……大和さん…わ。」 陸が振り向こうとする寸前に、大和は背後から陸の額の髪を搔き上げ、額に手を当てるとじんわりとした熱さが手に伝わって来る。「…やっぱり熱あるな。しんどいだろ。こんな状態で本当に歌えるのか?」 「…大丈夫です。俺、今日はどうしても歌い切らなきゃいけないんです。あの人の思い描く通りにはしない。」 青白い顔がほんのり紅潮し始めた陸に大和はそう言うと、哀しげに、だけどはっきりと陸は言った。「…大和さん、ごめんなさい…でも、三月は悪くないんです。俺が皆には言わないでって言ったから…だから三月はそれを守ってくれてるだけなんです。…でも、終わったらちゃんと話します…。」 大和が怒っていると思っているのか、陸は大和の方を振り向くことなくそう言った。「陸、こっち向け。」 まず、その認識を正さなければならないと、大和が一言そう言うと、陸は恐る恐ると大和の方を見る。「俺は別に怒ってるわけじゃない。誰が悪いとかそういうことじゃない。…唯、お前さん達が酷い顔してるから心配なだけだ。俺達が頼りない仲間だと思ってないのなら、話すことで少しは楽になるのなら、後でいいから話してくれ。」 伝えたいことを伝え終えると、陸は表情を歪ませながらコクリと頷いた。 何も解決などしていないが、とりあえずこのことについては置いといてステージを見ると、丁度2つ前の出番であったNIGHTMAREの歌が終わった所だった。「七瀬さん。」 NIGHTMAREがステージから下がって来る。 それを見ていると、先程楽屋に挨拶に来た藍沢が名を呼び、真っ直ぐと陸の方に向かって歩いて来る。 IDORiSH7にでなく、陸個人の名を呼んだ藍沢に一体何の用かと考えながら陸の方を見ると、藍沢を見る陸の表情が明らかに動揺の色を見せた。近付いてくる藍沢から逃げるように1歩下がる。「陸に近寄るな、この犯罪者。」