「………………吐きそう」 翌朝。 一人で公爵邸を出た俺は、右手で顔を覆いながらしわがれた声で呟いた。 頭痛にめまい、それに吐き気がひどくてまっすぐ歩けない。今の俺はきっと死人のような顔色をしているに違いない。門番の人もえらく心配そうな顔をしていたし。 気分は最悪の風邪っぴきだ。 本来なら屋敷で静養しているべきなのだが、身体の関節という関節が千切れるような痛みを訴えており、ゆっくり眠ることもできない。 正直、歩くのもけっこうつらいのだが、寝台の上でゴロゴロしながらうめいているよりは気分もまぎれる。 なので、こうして屋敷を出て王都の街並みを歩いている次第である。「ぐぬぅ……ここまで反動がひどいとは予想外だった」 むろん、反動というのは昨夜ルナマリアにためした魂付与の実験である。 実験自体はうまくいった。 というか、やばいレベルで大成功だった。 ルナマリアのレベルが『19』から『20』に上がったのである。 俺は意図的に他者のレベルを上げることができる手段を手に入れたわけだ。 字面じづらだけで誰でもやばいと理解できるだろう。これを公表したら、いったいどれほどの騒ぎが起こるのか。それを想像すると背筋が震えるくらいである。 さらにいえば、俺の魂喰いは基本的に高レベルの相手ほど効率が良い。つまり、ルナマリアのレベルを上げる→その魂を喰って俺のレベルを上げる→ルナマリアのレベルを上げる、という永久機関が完成するわけだ。 おお、俺無敵じゃん。一瞬、そんな思考が脳裏をよぎった――そんな風に思えたのは自分のレベルを確かめるまでだったが。 今も俺を苛んでいる頭痛や吐き気、めまい、関節痛、腹痛、胸痛その他もろもろだが、昨夜は今以上にひどかった。 魂付与の反動にしても何かおかしい。そう感じた俺は、嫌な予感をおぼえながら自分のレベルを確認した。 すると『8』だった数字が『7』に減っていた。 レベルダウンが起きていたのである。 俺のレベルが最後に上がったのはグリフォンを倒したときだ。 それからスキュラやワーウルフを倒し、ほぼ毎日ルナマリアの魂を喰い、果ては蛇の王バジリスクまで倒したのにレベルはあがらなかった。 だというのに、ルナマリアに少しばかり魂を分け与えただけであっさりレベルが下がってしまった。 言ってはなんだが、今日まで貯めた魂とルナマリアの一レベルでは到底つりあわない。 いや、貯めた分がパアになるだけならまだいい。だが、レベルダウンまでくらうのは納得しかねる。 そもそも一度あがったレベルが下がるとか聞いたことねえぞ! ふざけるな! そう怒鳴りつけたかった。 だが、誰を怒鳴ればいいのか分からない――いや、魂付与の実験をおこなったのが自分である以上、怒声も罵声もすべて己に向けるしかない。 単純な事実として、魂付与を行った結果、ルナマリアのレベルは上がり、俺のレベルは下がった。 そういうものなのだ、と納得するしかなかった。「……まあ、おてんば姫を助けられる算段がついただけマシか」