同じ箇所を実に七度、続けざまに炎の魔法で撃ち抜かれたヒュドラの口から巨大な叫喚がほとばしる。たとえ痛みはなくとも、腹を突き破られ、臓腑を焼かれる感覚が快かろうはずがない。 火炎姫の魔法は銛もりのごとくヒュドラの胴体を穿うがち、深々とした縦穴をつくりあげていった。火による攻撃ゆえに再生も始まらない。 とどめとばかりに人間が繰り出した鋭い刺突が決定打となり、ヒュドラの胴体に大穴が開く。人間はその穴に飛び込んでヒュドラの押圧プレスから逃れ、ついでに着水の衝撃からも逃れた。そして、そのまま体外への脱出にも成功する。 もはや恐れる色もなく平然とヒュドラの鱗の上に立った人間は、ぶるりと身体を震わせると吼えるように笑った。「ハッハァ! さすがは竜種、さすがは幻想種! 身体に穴ひとつ穿うがっただけであっという間にレベル『13』か! これなら何時間、何十時間でも戦える――いや、どうか戦ってくださいとお願いしないといけないな! 頼むから逃げるな、それと簡単にくたばってくれるなよ、毒の王!!」 その言葉が意味するところは、あいかわらずヒュドラにはわからない。わからないが、それでも己がひどく侮辱されていることは伝わってきた。 ――不遜ふそん、不遜ふそん、不遜ふそん。 ヒュドラの胸裏に瞋恚しんいの炎がともる。 みずからを滅ぼす存在を許容することはできない――そんな自己保存にしたがって覚醒した幻想種が、自己保存とは似て非なる「怒り」という感情にしたがって行動を開始する。 それは竜巻が怒りによって進路を変えるにも似た、あるいは地震が怒りによって震度を変えるにも似た、本来ならば起こるはずのない出来事。 人・と・い・う・種・を・滅・ぼ・す・よ・う・に・世・界・に・定・め・ら・れ・た・幻・想・種・が、一人を殺すために牙を剥むいた瞬間であった。