チェスブロウは、 この 「オープンイノベーション」 の概念と対比させて、 自社開発の技術 ・ 製 品を既存取引先のみに販売する自前主義 ・ 垂直統合型のイノベーションモデルを、 「クロー ズドイノベーション」 と呼んだ。 同氏は、 米国における 「クローズドイノベーション」 の例として、 1980~90年代、 数多くの画期的な研究開発が為されながら、 市場化 ・ 製品化されず成果とし て日の目を見ることがなかった米大手企業の研究開発拠点をあげる。 その最たる例は米通信 大手AT&Tのベル研究所である。 1985年の同社分割後、 ベル研究所の大半の機能を引き継 いだルーセント ・ テクノロジーは、 当時世界最先端の研究開発環境を誇った同研究所の内部 資源を総動員して次世代技術の開発に邁進したが、当時は目立った研究開発機能を有しなかっ たシスコにその優勢を奪われている。 閉鎖的で内部資源に依存したルーセント ・ テクノロジーと比較し、 シスコは有望なスタートアップへの出資やM&A、 協業関係を築くなど外部資源を積極 的に活用することで、 自社内で研究拠点を持たずとも効果的な新技術の開発、 さらに市場化を 成し遂げた。 同様の現象は、 パソコン産業において絶対的な王者とされ「Big Blue」と崇められ たIBMがインテルやマイクロソフトの隆盛を許したように、 同年代米国企業に多く見られた6。オープンイノベーションとクローズドイノベーションを図示したものが図表 1-1である。