父親が戻ってきた。それは天と陸が本当の家族のもとに帰るということ。喜ぶべきことなのに何故か心が晴れなかった。「にぃに...?おじちゃんかえって...おとうさん!!」 「おとうさん!?」扉の開閉音で起きたのか天と陸がリビングにやってきて空地を見つけた瞬間、泣きながら駆け寄る。やっぱり父親がいいよな、とわんわん泣いている双子を見てはこれでいいんだと言い聞かせる。「ごめんな天、陸、もうお父さんどこにも行ったりしないからな。」 「ほんとう?」 「どこもいかない?」 「本当にどこにも行かない。だから帰ろうかお家に。」いよいよ天と陸とはこれでお別れだ。世話をすることは最初は少し面倒だと思っていたのに今では離れるのが名残惜しいだなんて、自分は随分と双子に染められたのだなと思う。だけど楽ではやっぱり本当の父親にはなれないのだ。 そんな風に考えていた楽は次の言葉に反応するのに遅れる。「にぃにもおうちかえろ。」 「え...」 「にぃはかえらないの?」 「...帰るって、俺の家はここなんだよ。」純粋に聞いてくる双子に泣きそうな顔でいけない旨を伝える。すると嫌だと駄々をこね始めた陸に続いて天も嫌だと泣き始める。そんな双子の我儘に一番泣きたいのは楽の方だった。「なんだよお前ら...俺のこと好きかよ...」 「にぃにのことだいすきだよ!!」 「にぃのことだいすきだよ!」 「っ。」たった一週間しか一緒に過ごしていないのに、大好きだと言ってくれる双子に楽は言葉に詰まる。別に会いに行けないわけではないのだから一生の別れというわけでもない。だけど、会うのと共に過ごすのでは全く違ってくる。大変だったことばかりだったけれど、それでもこのまま父親が帰って来なければいいのにと思ってしまった自分が情けない。だからこそ楽は覚悟を決める。「俺にとってはお前らと過ごした一週間は楽しかった。これは宝物だ。もちろんそれは天と陸にもあるだろ?」 「...うん。」 「...ある。」 「はは、なら大丈夫だ。それに別に絶対会えないわけじゃない。俺が時間を見つけて絶対に会いに行く。それじゃダメか?」 「...だめじゃない。やくそく、してくれるなら」 「うん。」 「分かった。ほら、指切り、するんだろ。」スッと小指を差し出せば、小さい二つの小指が絡みつく。天と陸が揃って歌を歌い始め、楽も一緒に歌う。指を切った途端に双子が楽に抱きつく。「にぃに、ずっとずっとだいすきだからね。」 「にぃがきてくれるのりくとまってるから。」 「...あぁ。ありがとうな。」双子を確かめるようにギュッと抱きしめたら、名残惜しいが離れる。 空地のもとに戻った天と陸はばいばい、と手を振ってから連れられて家を出て行ってしまった。パタンと閉じた玄関が虚しく響く。「...一週間、楽しかったんだな俺。」双子がいなくなって改めて知った事実に楽は一瞬だけ眉を寄せたがすぐに切り替えて再び一週間前の日常に戻る。 ただし、次のオフの計画はすでに決まっている。