「あたしからは、まだ何も。正式に決まった話ではないので」 もしかしたら、それなりに雅紀の耳にも入っているかもしれないが。 「じゃあ、本決まりになったら雅紀もビックリするだろうな」(それはないと思うけど) 間違いなく。雅紀は沙也加には関心の欠片もない。悲しいけど―悔しいけれど、それが事実であった。たとえ、沙也加が自分と同じステージに立ったとしても、雅紀は興味の一督も寄越さないだろう。 たぶん。 ......きっと。 だから、逆にやる気が湧いてくる。沙也加自身、モデルとしての才能があるのかどうかもわからない。だが、ひとつの目標にはなる。沙也加の存在を無視したくても無視できなくなるように。 初めは、そう思っていた。けれど。わざわざ理由付けをしなくては雅紀の視界に入る自信がないと言っているようなものだと、気付いた。 肩の力を抜いて。 もっと......リラックス。 それでいいのだと思った。無駄な努力などひとつもない。沙也加がそう思っている限り、それはこれからの活力となるはずだった。