「おはなを、リクにあげたくて・・・」 「ならばこちらが用意しましょう。お部屋に戻るのですよテン。」 「あの、できればボクが、」 「・・・お部屋に戻りなさいテン。次は言いませんよ。」 「・・・・・・はい。」言い方は柔らかくとも、その声音は酷く冷たい。見上げた熾天使の顔は陰っていて見えないが、きっと何も写していないのだろうと思いながら塔内にある唯一の部屋に戻る。扉を開けば、おかえりなさいテンにぃ、と表情を明るくして迎え入れる双子の弟──リクが、おねがいはかなえてもらえた?と尋ねてくるので首を横に振ってダメだったことを報告する。「やっぱり、だめなんだね。」 「どんなねがいもかなえてあげるというのに、ここからでることはゆるしてくれないんだもの。おかしいよね。」 「ざんねんだけど、またおはなしをきくだけでがまんしなきゃ。」テンとリクに食事を持ってくる担当の天使が、つまらなさげに日々を過ごす姿を見かねてこの塔の外には色とりどりの花が咲き誇り、とても美しい光景が広がっていると教えてくれた。その話は窓一つない塔の中しか知らない彼らにとってはとても興味深い話で、天使が食事を持ってくるたびに話をして欲しいとせがんだ。それに嫌な顔を一つせずにいろんなことを教えてくれた天使のことがテンとリクは好きだった。外に出してはもらえないのなら、その天使が食事を運んでくる時に話を聞くだけで我慢しようと互いに頷き合って納得したのだが、その天使は二度とテンとリクのもとには訪れなかった。 その当時はどうしていなくなってしまったのかは分からなかったが、のちに処罰対象として存在そのものを消滅させられたと知る。テンとリクに外のことを教えてあげたというたったそれだけのことで存在そのものを無に返されてしまったという結末は彼らにとって酷くショックを与え、同時に自分たちが関わると罪のない天使たちが脅かされることを知った。 そのことから他の天使たちとは一線を引いて深く関わることを拒み、唯一側にいるお互いに深く依存するようになってしまった。