一つの墓がある。
それは、ある英雄のために作られた、その功績に比べればあまりにちっぽけな墓だ。
彼は、地球という世界から異世界に呼ばれた、当時15歳の少年だった。
“白天
びゃくてん
”の異名で呼ばれた英雄。
神獣に魔王、聖女や神であろうと如何
いか
なる敵とも戦い抜いた、神威の剣士。
容姿端麗、聡明かつ勇敢で、そして心優しく正義感の強い、理想的な英雄であったと語られている。
それも間違いではないのだろう。
そう評されるに相応しい功績を、彼は遺していったのだから
だが同時に、正確ではない。
彼を語る多くの人々は知らないのだ。彼がただの少年であったことを。
泣き虫で、
寂しがり屋で、
あがり症で、
天然で、
馬鹿みたいなお人好しで――
彼は当たり前のように喜び、怒り、哀しみ、楽しむ、年相応に未熟な一人の少年に過ぎなかった。
そして、その「当たり前」を誰よりも大切にしていた。
それ故に、彼は“天
アルス・マグナ
”の一角に数えられる英雄なのだ。
……その英雄の墓には、「神護悠
かみもり ゆう
享年16歳」と刻まれている。
優しく泣き虫な、英雄の話を始めよう――