意を決して陸は顔を上げ男子の顔をじっと見つめた。男子は急な陸の態度に顔には出ていないが驚いている。ほんのり頬も染めて。陸は全く気付いてはいないが。じっと見つめ合う時間約5秒。「え、えっと…!か、かれ、かれし「おーーーい!七瀬!八乙女!こっちこっち」七瀬。八乙女。知った名前が陸の耳にしっかりと届いた。その時そのまま顔を声がする方に向けなければよかったのに。天と楽が参加する飲み会は同じ居酒屋であろうことか席は隣だった。 ばっちし天と目が合った。お互い固まり2人の絡み合った視線の中で時間が切り取られたような気がした。「おい、天。急に止まるな」 「…」 「どうした?」 楽は天の後ろを歩いており急に止まった天に声をかける。どうしたのかと楽も天の視線の方向に視線を向けると切れ長な目を見開いていた。天は陸の恋人であるしそれを唯一知っている楽が驚くのは無理はない。何故合コンに陸がいるのか。合コンではないかもしれない。いや、どう見ても合コンだ。楽が陸と声を出す前に天はにこりと笑顔を貼り付けて陸の元へ足を動かしていた。天を呼ぶ楽の声は天には届かなかった。天にバレたと逃げ場のない陸の頭には"逃げる"しかなかった。だが逃げられるわけもなく横を見れば壁しかない。もうそれでも仕方ないと陸は壁と一体化しようと身体をひっそりと沈める。 天は大層モテる。楽もそうだが大学では毎日のように告白もされていた。急に知らない男が入ってくるのに誰も不信感を抱かないのは天が天使のような笑みを浮かべて陸を見ていたから。そして天がかっこよくてその場にいる女子は天に見惚れていた。「り、陸!」 「…」 陸の不信な行動に隣にいた男子はいつのまにかいなくなっていた。その方が好都合であるが。男子に変わり友人が陸の腕に抱きつきながら陸に声をかけると興奮を隠せない様子だ。 「ねえ、あの人だれ!?めっちゃかっこいいじゃん!」 「う、うん。そうだね…」 「何壁と話してんのよ!ていうか、陸のこと見てない…?」