分かりました。お受けします。けれどその新しいダンジョンについては、できる限りを教えてください」「ありがとう。分かっていること全てを教えるよ……と言いたいところだが、申し訳無い。本当に何も分かっていないんだ。言えるのは、大まかな場所と、過去の別の初期探索で起きたことくらいしかない」 まあ、それもそうか。ダンジョン内で出てくる魔物すら出くわすまで分からないというのは、個人的には不安しかないけれど、やるしかないだろう。 ダンジョンはそれぞれ違う世界と言ってもいいほど、各々異なる性質を持っている。出てくる魔物も全く違うのが普通だ。過去の例を聞いてもあまり参考にならないかもしれないけれど、できることはやっておこう。 ふと、またルシャを見る。彼女は僕に、しっかりと一つ頷いてくれた。 初期探索では、彼女も危険に晒されるだろう。けれど仲間を守るのは僕の仕事だ。僕が全てをやり通せば、仲間は守れる。ならば僕がすべきなのは、仲間を心配して遠ざけることではなく、ただ全力で臨むことだけだろう。 その後、報酬なども簡単に話してから、トスラフさんは帰っていった。出発はできるだけ早めでお願いしたいとのことだったが、流石に今日は準備に充てたほうがいい。 まずガエウスとナシトに声をかけなければ。シエスにはなんて言おう。念のため武具の点検をしておいた方がいいかもしれない。 すべきことが急に溢れて、朝までののんびりとした日々が、嘘のように慌ただしくなった。動き出さないと。残っていたお茶を一気に飲み干して、立ち上がる。「ルシャ。悪いけど、君はナシトに今のこと、伝えてもらっていいかな。僕はガエウスを探しに行くよ」「分かりました。他にやっておくことはありますか?」「ナシトの都合次第だけど、早ければ明日には出発するかもしれない。武具の確認をしておいて。必要なものがあれば、昼に買いに行こう。いや、昼はまず一度皆で集まった方がいいかな」 言ってから、気が逸ってしまっているのか、なぜか少しだけ早口になっているのに気付く。「はい。……ふふ。ロージャも、やっぱり男の子ですね」 ルシャも僕の変化に気付いたのか、柔らかく笑っている。「男の子?」「ええ。冒険の予感に熱くなるのは、男の子、でしょう?」 言われて、思う。僕は熱くなっているのだろうか。 そうかもしれない。いつも、ガエウスがうるさいから、と言いつつ、実は僕も冒険に取り憑かれているのかもしれない。誰も知らないダンジョンに心躍っている訳ではないけれど、興味は間違い無くある。その奥に何があるのか、確かめてみたいと思う。 なら僕も、男の子、なのだろう。「さあ。行きましょう。依頼を伝えた時のガエウスの顔、後で教えてくださいね」 少し考え込んでしまった僕の背をぽんと叩いて、ルシャが言う。「ああ。呼ぶのが遅え、って怒られるのは嫌だからね」 僕も笑って答えた。すぐに家を出る。ルシャは学校の敷地内の、主棟の方へ駆けていった。 ガエウスはきっと酒場だろう。向かいつつ、冒険の予感のようなものを感じて、思わず駆け出す。 慌ただしくなった頭の中で、何と伝えればガエウスが一番はしゃいだ反応をするか、そんなくだらないことを考えながら。