「あら?有名な話だと思っていたのだけれど」「……聞いたことは無いな。ご婦人。詳しく聞かせてほしい」「詳しくなんて、知らないわ。私が知っているのはおとぎ話のその一節だけ。これ以上はお嬢さんに聞いてみなさいな。お仲間にも隠し事なんて、いけないお嬢さんね」 ソルディグの問いにふふと笑って、ログネダさんがまた僕を向く。ログネダさんは一瞬だけ片目を瞑って、いたずらっぽく笑ってみせた。 エルフと『果て』に関する文献なんて、読んだことがない。けれどルルエファルネのあの慌てようからして、何か関係はあるのだろう。エルフが隠していたその秘密を、どうしてかログネダさんは知っていて、今口に出した。ログネダさんの意図は分からないけれど、その表情を見る限りでは、僕らを想ってのことなのだろう。そのことは、有り難い。 けれど、状況はまたひとつややこしくなった。「ルル。君は何か、知っているのか」 ソルディグが、ルルエファルネへ問いかける。エルフは俯いて、ただ首を横に振るだけだった。「その様子なら、エルフと『果て』の繋がりも的外れという訳ではなさそうだな。……共に『果て』を目指す仲間同士、通じ合えているものと思っていたが。やはり、目的はあるか。君にしても、ナタにしても。……だがそれは俺にしても、同じこと、か」 ソルディグが小さくつぶやいた。その声には落胆はなく、ただ僅かに、疲れのような重さがあった。「ロジオン。ひとつ、提案がある」 ソルディグがこちらへ向き直る。その声からはまた、力強さ以外を感じることができなくなっていた。「クランに加わる意思が無いなら、それでもいい。だが、共にエルフの住む地まで行かないか。俺はエルフの住む地を知らないが、ルルが話してくれなかったとしても、調べようはあるだろう。共に『果て』に繋がる道へ向かう方が早い。目的は違っても、辿り着きたい地は同じだ。益はあると思うが」