モークシーの町に警鐘が鳴り響き、領主の館と物見の塔に魔物の暴走が起きた事を示す旗が揚がり、血相を変えた人々が慌ただしく行き交う。 避難する人々の顔も、逆に町を守るために準備を整える兵士や騎士、冒険者達の顔にも悲壮な表情が浮かんでいた。 最初、魔物の暴走が起きたと言う知らせが町にもたらされた時は、ここまで深刻な事態だとは誰も思っていなかった。 何故ならこのモークシーの町は、三万人が定住する交易都市だ。当然城壁も堅牢で、衛兵の数も多い。そして何より、町に滞在している冒険者が大勢いる事が、人々の不安を小さくしていた。 事実として、もし暴走が起きたのがD級ダンジョンだったら、モークシーの町は余裕を持って耐えられただろう。運悪く町の外に出ていた商人や冒険者が何人か命を落としただろうが、町の中に被害が出る事は無かったはずだ。 C級ダンジョンだった場合は、それなりの被害が出ただろうが、それでも町が壊滅することは防げたはずだ。冒険者ギルドの緊急依頼によって動員された冒険者達が、魔物を迎撃し町を守ってくれる。特に今は冬であるため、十分に稼げる実力のある冒険者達は町の中に留まっている。戦力は十分揃えられるはずだ。誰もが、そう思っていた。 しかし、その思いは物見の塔から複数のドラゴン……ワイバーンではない、体長十メートル以上のドラゴンが複数空を飛んでいると言う報告がもたらされた瞬間、大きくひび割れた。 そして町に迫る魔物の正確な情報が入る度に、人々の顔は青くなった。 ドラゴンがサンダードラゴンである事が分かった時、冒険者ギルドだけでは無く魔術師ギルドやテイマーギルドでも緊急依頼が張り出された。伯爵家に仕える騎士全員が招集され、衛兵たちは人々を避難させるために走り出した。 そして弱い魔物でもランク5のオーガーソルジャーで、しかもランク7のオーガーハイジェネラルが指揮している数十匹の集団だと報告がもたらされた。モークシー伯爵はそれを聞き終わった時、今日自分は死ぬのだと覚悟した。何故なら、この町にはランク7以上の魔物を一人で倒せるB級冒険者が一人も居なかったからだ。 モークシーの町周辺にあるダンジョンは、全てC級以下だ。そのため、B級に昇級した冒険者達の殆どは、活躍の場を求めて他の町に活動の場所を移す。