「あのミノタウロスの巣で、私達はお互いに励まし合いました。その時に私が言っていた事を覚えていますか? どんなに辛くても、死に逃げてはいけない。希望を捨てなければ、神はきっと応えてくれる。 そして、女神は……ヴィダは応えたのです」 ただ、その説得の内容はかなり狂信的だったが。「え、いや、確かに覚えてるけど……神様ってこんな子供じゃないと思う……男、だと思うし」「そう思いますよね。でも彼女は聞いてくれないのですよ、大事な事だから繰り返して言っているのに」 彼女自身の言葉に寄れば「女神」であるはずのヴァンダルーの声も届いているか怪しい様子のユリアーナに、説得されているナターニャも困惑を浮かべながら顔を青くしている。「でも、師匠は信じてついて来るなら腕についてどうにかする技を授けてくれるって、俺とも約束してくれましたぜ」 しかしサイモンがそう言った事で、ユリアーナの言葉にナターニャは説得力を覚えたらしい。「分かったよ……オレも一緒に行くよ……たしかに、この子からは何か只者じゃない感じがする」 もしくは、単に諦めただけかもしれないが。「そうか、話が纏まったようで何よりだ。では、私は手続きがあるので、失礼するよ」 事態を見守っていたベラードは、口元が引き攣るのを隠せないでいた。 表情や意識が戻ったユリアーナは、一見すると正気に戻ったように思える。しかし、実際は廃人から狂人に変化しただけではないだろうか。彼女の瞳を見てしまったベラードには、そう思えてならなかった。 そしてその原因は、彼女の耳元でずっと何事かを囁き続けていたヴァンダルーであると彼は確信していた。(……話が一段落したら、彼にそろそろ冒険者ギルドに登録だけでもしてみないかと誘うつもりだったんだが……もう少し様子を見た方がいいな。実はかなりの危険人物かもしれない) そう思いながら、ベラードは諸々の手続きを行うために会議室から退出したのだった。 冒険者ギルドから出た後、途中でサイモンと別れ、ナターニャはヴァンダルーの家に運び込まれ……ヴァンダルー達から、彼ら自身がどんな存在なのかざっと説明を受けた。 ヴィダの化身とか、その息子のザッカートの後継者とか、頭の中がどうにかなりそうだったが、何とか乗り切った。