普段とは対照的に難しい顔をして百がそう口にした。温泉旅行なんて一見平和そうな話だが、このタイミングでの敢えての話に嫌な予感を感じずにはいられなかった。 三月も同じことを感じたのか、不安そうな表情で百に問い返した。「…そっか、まだ誰も知らないんだね。実はRe:valeとTRIGGERとIDOLiSH7の3グループ合同でそういった企画が来たんだけど…ゲスト枠が藍沢直哉なんだ。」百が最後に口にしたワードで、その場の空気が凍るのがわかった。チラリと横目で陸を見ると、目を伏せていて動揺しているのが伝わって来る。「…大丈夫ですよ、俺。今までも何とかなってたし、今回だってきっと…何とかなりますよ。」自分に皆の視線が集まったのを感じたのか、陸は笑みを見せてそう言った。 藍沢直哉と出遭う度に、その身と心に、傷が付けられていくというのに、大丈夫だと陸は笑う。それが、見ていて痛々しくて仕方ない。 自らの拳を耐えるようにこっそり握り締める陸の手を、隣にいた天がやんわりと包む。「…断ることは出来ないんですか?せめて七瀬と天だけでも。」 「難しいだろうね。」楽の問いに答えたのは千で、淡々と言った。「八乙女さん、ありがとうございます。…でも、本当に大丈夫ですよ。えっと…それに俺、皆で温泉行きたいです。」 「僕も行くよ。こんなことで仕事を断るわけにはいかない。それに、陸は僕が守るから。これ以上藍沢直哉の好きにはさせない。」楽に礼を言い、笑ってそう言う陸に続いて、天が気迫のこもった言葉でそう口にした。「天にぃ…。」少し怖いくらいの気迫の天は、現状に対して怒っているのかもしれない。陸を傷付ける藍沢直哉に対して、そして何も知らずに陸に守られて来た自分に対して。九条天とはそういう男で、冷たく接することも多々あるが、弟の陸を大事にしていることは傍目から見ても明らかだった。 しかし、天の名を呟いて目を逸らした陸を見てふと思った。素直じゃない天の愛情は、陸本人にはきちんと届いているのだろうか。 もしも届いていなかったとしたら、天の言葉を陸は一体どう受け止めているのか。「大和さん…?」