ガタガタと震える手をぎゅと握り締めて、扉の前にしゃがみ込む。 病院の先生にはまだ早いと言われた。だけど、いつまでも恐れていては前には進めない。 それにはオレはアイドリッシュセブンのセンター七瀬陸だ。ファンを悲しませてはいけない。 だから、前を向かないと、前に進まないといけないから・・・ ギュっと爪が手のひらに喰い込む。もう一度大きく深呼吸をして、天にぃの言葉を思い出して・・・ そう大丈夫・・・もう一度扉に手を掛けようとした瞬間、音楽が急に止まり、そして中から聞こえて来たのは「天にぃ、の歌」中から聞こえて来る優しい歌声・・・さっきまでの苦しい呼吸が鼓動が落ち着いて来る。 幼い頃から苦しい時に励ましてくれる様に歌ってくれた天にぃの歌。 大好きで大好きで、天にぃの歌を聞くと頑張れる気がした。どんなに辛い治療でも苦い薬でも耐えることが出来た。 やっぱり天にぃって凄いや・・・さっきまで苦しかった気持ちがなくなっちゃった。「・・・よし!!!」一通り通しで振りを入れ、今度は歌へと練習を切り替える。残された時間はごくわずかだ。 一旦曲を止め、出だしがボクと陸とのソロパートから入る曲のワンフレーズを歌い始める。 本当は一緒に歌いたかった。でも大丈夫。陸なら絶対に試練を乗り越えてボクの隣に着てくれる。 今は居ないけれど、隣に陸が居ると言う事を感じながら歌う。 陸が苦しい時頑張っている時に歌った様に。あの子に届く様に。 夢の中であの子から返して貰った『歌声』を響かせながら。――カタリ