「だから! 誰がこんなとこでいきなりんなことやるってんだよ。変態か、俺は。……だから、そうじゃなくて……その、キス、させろよ、って言ったんだよ……」最初は気強く怒鳴っていた真弘だったが、だんだん小声になり、最後には己も赤くなって珠紀から眼を逸らした。「……あ、キスのこと、ですか……」珠紀は拍子抜けしたように呟いた。(なんだ、てっきり……かと、思った……)珠紀は、ほっとしたような残念なような、複雑な気分になる。――でも、彼だって悪い。今のは、誰が聞いたって、誤解するような言い方だった。……そう言ったら、また真弘は怒ってしまうだろうから、口には出さないけれど。「だってよ……俺、お前と2回しかキスしてねーんだぜ? しかも、1回目は守護者覚醒のためだったし……2回目はなんだか夢中で……考えてみたら、ちゃんとしたことないんじゃねえのかって……」誰に聞かれたわけでもないのに、真弘は一人でぶつぶつと言い訳を口にしていた。「……いいですよ、先輩」「――あ?」「キスだったら、いいです。……もう辛いことや哀しいことなくなって、こんなに平和になったのに、私たち恋人らしいこと何もしてませんでした……だから、先輩、してください」「珠紀……」真弘は驚いたように、珠紀の顔を見つめた。珠紀は優しく、真弘に微笑み返す。「……えーっと、じゃあ……いいんだな?」「はい」「じゃ、じゃあ……するぞ?」真弘は緊張した顔でそう言い、そっと両手を珠紀の肩に置いた。「……つか、オマエ、目くらい瞑れよ……」「あ、そでした」