ひとしきり、一期の強い情を受けた鯰尾が着衣を整えたのち、鯰尾は脇差部屋で正座になっていた。目の前には一期が同じく正座をしている。説教をしているわけじゃないけれど、事が済んでから鯰尾はそう簡単には顔を上げなかった。俯いては、ちろりと窺うように一期を見て、すぐに顔を畳に陥没させた。「うん、とりあえず俺が悪い…のはわかりました」「はい」「余裕があるとかいってごめんなさい…」完全に羞恥心に心が折れて、畳に頭を打ち付けている鯰尾を、一期はちらりと見た。自分の余裕のなさは露呈したものの、それで愧死するような一期じゃない。こういうのは自分が秘めている狡猾さゆえか、強かに開き直れた者が優位に立てる。鯰尾は情を身に受けて言葉にされて、無自覚だろうともそれを一期が良しとしない事も十分に感じたはずだ。鯰尾が謝罪を不器用ながらに接続して、一つに繋げる。それを急かすことなく、一期は反省を示す言葉を受け止めた。自分など置いて駆け抜けていってしまいそうな鯰尾に、どこまでも行って良いと背中を押す一期と、少しだけ束縛をすることを望む一期との差を受けて、鯰尾は電気を流されたように身を痺れさせている。勿論心から周囲と笑う鯰尾であって欲しいけれど、一期からは同時に自分がこれだけ縛られているということを時には感じた方がいい。「お前の好きにしてもいいけれどね」という含みを込めた想いは、野放しにしていることを容認していないという意味もしたためているからだ。