本音を言えば今すぐにでも駆けつけたかった。 駆けつけて「大丈夫だよ。」って陸を安心させてあげたかった。 でも僕は今『七瀬天』じゃなくて『九条天』だから。 だから行くわけにはいかなかった。 例えそれがもう一度最愛の弟を見捨てる行為だとしても―――――――――生放送が終わり、急いで陸の部屋に駆けつけるとまわりには陸の主治医と看護師が数名いて。 その看護師の一人がちょうど陸がつけていた酸素マスクを外しているところだった。「申し訳ない、天くん。」そう言うと主治医は深々と一礼し、看護師を連れて部屋を出ていく。残された天はただ呆然と陸を見た。 いつもとなんら変わりのない陸は、ただ眠っているだけのようにも見えた。 そして、陸の傍に行くとその頬に触れる。 けれど触れた頬は驚くほど冷たくて。 もう陸はこの世にいないのだと感じて、涙が溢れだす。「ごめんね、りく。 遅くなって、ごめんね。」ごめんね、とただ壊れたラジオのように繰り返す。