理科実験室で物理の実験を終え、教室に帰りながら、白金さんと今日のバンド練習の話をしていた。「今回は、前回合わなかったところを中心にやって行きたいですね」「そう…ですね……あれ?」と話をしていると突然、白金さんが会話を切り、とある方向へ視線を向ける。私もそれに倣い視線を向ける。すると、そこには白鷺さんが居て、こちらに笑顔で手を振っている。隣の白金さんは丁寧にペコっとお辞儀をしていた。恐らく、白金さんは気づいていない。この白鷺さんの表情に。けれど、私は気づいた。この笑顔は作られたものだということを。あの文化祭のときに見せた笑顔とは大きく異なることも、 この笑顔の真意を分かるわけもないという自信を持っていることも。そんな表情やそこに秘めた想いにズキズキと胸が痛む。まだあの人は魔法が溶けたシンデレラ。早く迎えに行かなくてはならない。けれど、策が何も思いつかないうえに言葉もかけることが出来ない。 握りしめた右手は見せず、少し微笑みを返しつつ、その場を後にする。白金さんには不審がられたでしょうけどね。なるようになるでしょう。