ミハエルを見送ったあと、セドリックとエリィはテラスで遅めの昼食を取っていた。本日のメニューは開き魚のムニエルだ。肉と違って魚には骨があり、ナイフとフォークで食べるのには慣れがいる。 セドリックがチラリと隣を見れば、エリィの皿の魚は綺麗に骨だけとなっていた。しかも骨格標本のように骨は整列させられ、身は全く残っていない。――――どこで覚えたのだろうか スラムでの生活は過酷だと知ってから辛いであろう過去を聞くのも躊躇われ、どうも探りを入れるスタイルになってしまう。「魚の食べ方が随分と綺麗だね」 エリィは少し視線を揺らし、おずおずと口を開いた。「骨を並べると、なんだか博物館に行った気分になれて、楽しくて…………つい。骨で遊んで申し訳ありません」「いや、遊んでいるようには見えないから構わないよ」 セドリックは微笑み、皿へと視線を戻す。――――時間はある。楽しみながらエリィと過ごすか。ふっ、皿の上の博物館ね…………相変わらずずれている 食事を再開させ、午後の段取りへと思考を変えた。 ※ 午後からセドリックはいつものようにアトリエで作業をしていた。部屋の隅ではエリィが着せ替え人形業務の合間に本を読んでいる。 少し休憩をとるため声をかけようとエリィを見ると、彼女はじっと外を眺めていた。開け放たれた窓から入り込む風に靡かせるミルクティー色の髪は甘い香りがしそうで、セドリックは吸い寄せられるように側に立った。「エリィ?何を見ているんだい?」「ご主人様、あの葉っぱが少し欲しいなぁと思いまして」「葉っぱ?」 周囲を見渡してみるが芝生と雑草しか見当たらず、特に珍しい葉があるようには見えない。 エリィは分かりやすいように手を伸ばし、芝生と森の境目を指差した。「あのギザギザした葉っぱです」「あぁ、あれか。あの雑草をどうするんだ?」「食べたいのです」「――――はぁ!?」 セドリックは水色の瞳を最大限に見開き、エリィの肩を思わず掴んだ。その肩は見た目よりも華奢で、今までの貧しい生活の影響か女性にしてはふくよかさが足りない。「どうした?昼御飯足りなかったか?おなかが空いているのであれば今から――――」「いえ、単なる嗜好品ですよ」「嗜好品だと?雑草が?」「はい。腹はあまり満たされませんが、心が満たされると言いますか…………食べるものに困って口にしたことがあるのですが、噛むとほんのり甘くて、スースーして案外美味しいのです。懐かしいなと思いまして」「…………」 当時を思い出してうっとりするエリィの表情をみて、セドリックは目眩を覚えた。「毒だと思わなかったのか?」「当時は美味しかったですし結果オーライです!」 エリィはサムズアップし、その笑顔は輝き清々しい。セドリックは腰に手を当て、もう一方の手でオレンジブラウンの髪を掻き乱した。